第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「なんで……、どうして、私じゃなきゃいけなかったの? 」
鬱憤をぶつける対象がなくて、堪えきれないほどの怒りが身体を支配する。
真っ黒な闇が湧き出して、胸の呪印が焼けるように熱くなり痛かった。
その苦しさにむせび泣いても、絡みついた熱は取れない。
鋭利な刃に、何度もズタズタに引き裂かれていくみたいだ。
誰かに助けて欲しかった。
それなのに、まわりを囲む冷たい視線は何も変わらなくて、絶望感に打ちのめされておかしくなりそうだ。
「嫌だ、こんなのが、私の運命だなんて……! 」
── コンナノ、認メタクナイ!!
心が壊れてしまいそうで泣き叫ぶ。
もう何も見たくないし、聞きたくない。
消えてしまえばいい、全部、全部……、何もかも……。
真っ黒な怒りが全身に火をつけて、絡みつく熱が身体を呑み込んでいった。
時を止めるような暗黒の闇が降りてくる。
黒鳥が見えた。
大きな鷲のような黒鳥が。
まるで、この時を待っていたかのような笑みを浮かべて、それがこちらへ舞い降りてくる。
『良き色になったな、我らの愛しき娘子よ』
くつくつと笑う黒い巨鳥の声を聞きながら、今まで気づかなかった自分自身に呆れて涙した。
── なんだ、結局あなたも……、この人たちと同じだったのね……。
巨大な翼をはためかせて小さな身体を包み込んだ、黒く柔らかな羽根を感じてハイリアは目を閉じた。
意識がどっぷりと暗黒に引きずりこまれていく。
それでも、よかった。
悲しみと痛みが支配する現実から目を背けて、全てを忘れていられるなら……。