第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
幼い自分が、組織の女に闇の呪印を刻まれることも。
新しく家族となったムトたちとキャラバンで暮らし、砂漠の村で彼らが黒い化け物に殺されることも。
迷宮でジュダルと出会うことも。
その彼に裏切られることも。
組織によって、信じていたことが壊されて、失われることも。
そのすべては決まっていたことで、恨めしくても、それが自分の歩むべき道だったのだと。
「初めから、全部……、決まっていた……? 」
突きつけられた闇の螺旋の真実に、胸がえぐり取られるような痛みを感じた。
それでは、自分がこれまで必死にやってきたことは、いったいなんだったというのだろう。
今までいくら望んでも、大切な人達の側に居続けることは叶わなかった。
どんなに武術が使えるようになろうと、巨大な力を手にいれようと、闇に身を染めようと……。
側にいた誰かは、いつも奪われるように失われて、たった独りで暗闇に残された。
それでも、側にいてくれる大事な人を失いたくなくて、今度こそはと挫けそうになる心を奮い立たせてやってきたのに。
── そんなことしたって、叶うはずがなかったんだ……。
これが決められた運命だったから。
あがいても、あがいても、大切な人を失い、悲しみの連鎖が続くことが、ずっと前からさだめられていたから。
「なんで……、どうして……、こんな運命が……? 」
わかってしまったとたん、どうしよもない絶望感と孤独感に襲われて、息ができないくらい涙が溢れて止まらなかった。
理不尽すぎるそれを受け入れたくなくて、湧き上がった漆黒のルフたちが乱れ飛ぶ。
「私が、いけなかったからなの……? 」
嗚咽を漏らしながら、悲しくて問いかける。
「いいえ、あなたは何も悪くないわ」
側で微笑む玉艶が言う。
「じゃあ、誰がいけなかったの……? 」
「さあ、誰が悪いのかしら。誰だと思う? あなたをこんな運命のレールに敷いたのは? 」
にたりと笑う、憎しみの対象でしかない女に見下ろされて、激しい怒りがこみ上げたけれど、それをこの人に向けることが間違いだとは気づいていた。
誰もいないのだ。悪い者なんて……。
だってこれは、自分自身の運命のレールでしかないから。
ずっと昔から、決められたものだから。
今、泣いているこの事さえも、さだめられたものだから。