第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「勝手なことするんじゃねーよ、約束が違うだろ! 」
「もういいじゃない、ジュダル。これ以上、この子を苦しませる必要はないでしょう。いつまで、あなたの我がままに付き合わせて無理をさせるつもりなの? 」
「ふざけんなっ! こいつを堕転させるのは、まだ俺の役目だろうが……! 」
聞こえたその言葉に、揺らいだ心が握り潰される。
失望感が身体を満たしていった。
── ああ、バカだ。私……。
ジュダルなら助けてくれるかもしれないなんていう期待を、未だにしていたなんて……。
ここに自分の味方なんて、もう誰もいないのに。
わかっていたはずなのに、それでも胸がひどく痛んでいる。
── まだ、こんなに信じていたんだ。ジュダルのこと……。
どうにか保っていた何かが、崩れていく音がした。
涙ばかりが溢れて苦しさが増す中、闇のような女が口元を歪めて笑っていた。
「ほら、可哀想だわ。こんなに泣いてしまって……。あなたが、ここまで引き延ばし続けてきたのがいけないのよ。
ねぇ、ハイリア。あなただって終わりにしたいでしょう? 苦しいものねぇ、いつまでも堕転できないのは」
くすくすと悪魔のような声が響いて、どろりと闇が絡みつく。
「ソロモンらの傲慢に巻き込まれた、哀れな子。悲しむことはないわ。あなたは何も悪くないのだから。
あなたのその道筋は、ずっと前から決まっていただけ」
「決まっていた、だけ……? 」
「見えるでしょう? あなたの運命の道筋が……」
玉艶の言葉に導き出されるように、闇の螺旋が見え始める。
ビィービィーと鳴くそれは、黒ルフたちが紡ぐ螺旋。
私自身の身体から溢れ出す、漆黒の渦。
それは、今までの記憶の道筋だった。
生まれてから、今、この瞬間に至るまでのことが、その闇の螺旋に映っていた。
渦巻く黒ルフたちが、鳴き声をあげて語りだす。
東の小さな山村で、おばあちゃんと暮らすことも、その故郷が燃え滅んで、おばあちゃんが殺されることも、すべては決まっていたことなのだと。