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【マギ*】 暁の月桂

第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕


「あなたは私に憎しみを向けることで、受け入れたくない事柄を見ないようにしたのよ。
 ジュダルが、我ら組織の者である事実から。あの子に傷つけられて、裏切られた現実から。あなたが昔から、我らの被験体である真実から」

「違う、そんなことない……! 」

発した声が震えていた。

ぐるぐると玉艶の言葉が何度も頭の中をかけ巡って、揺れ動く感情がかき乱される。

「いつまでそうやって否定し続けるのかしら……。本当は、全部わかっているのでしょう?
 都合よく否定しようと、あなたが拒絶した事は何も変わらないって……」

「そんなこと……! 」

ないのだと、否定しようとした言葉を遮るように玉艶が言う。

「本当に? ではここに、あなたの味方はいるの? あなたを見下ろすこの中に、あなたの考えをそうだと言って、手を差し出してくれる人はいるのかしら」

氷槍に突き刺された姿を囲むように見下ろす、覆面の従者たちが見えた。

その側に立つジュダルが見えた。

表情が隠された彼らからは冷たい視線が注いでいて、赤い眼差しは無関心とでもいうように、こちらを見ていない。

「誰もいないでしょう? ここにあなたの味方なんていないわ。だってあなたは、今まで我らに生かされてきた被験体だもの。皆があなたの堕転を望んでいるわ」

耳元で玉艶に囁かれたとたん、胸が苦しくなって涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「もうやめなさい、ハイリア。足掻くだけ苦しいだけよ。あなたの運命なんて、初めから決まっているのだから」

醜悪なその笑みに凍りつく。

「決まって、いる……? 」

「そうよ、あなたは初めから堕転する運命なの。我らの実験体として刻印を押されたあの日から……。いいえ、そのずっと前から決まっているのよ。
 あなたの生まれ故郷が滅ぶことも、その先であなたと出会った者たちが死ぬことも。あなたが裏切られてすべてを失うことも……」

「おい、玉艶! 」

突然、ジュダルが声を張り上げてビクリとした。

涙で滲んだ視界に、玉艶を睨む彼の姿が映る。

── ジュダル……?

苛立ったその眼差しは、嫌な事ばかり言う目の前の女に敵意を向けているようで困惑した。

暗闇に転がり落ちそうになっていた自分を、助けてくれた風に見えて。
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