第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
皮膚を引き裂く痛みが走り、手に残る銀刀がわずかに氷槍を掻いたが、そんなものは微々たるもので意味をなさない。
その身を守っていた最後の鎧がついに引き剥がされて、硬い床に縫い付けられるように押し倒された。
次々と氷槍が四肢に突き刺さり、動きが封じられる。
鋭い痛みに息が詰まる中、双剣は消え失せて、ただの腕輪に戻っていた。
アイムの気配も感じない。
完全に金属器のマゴイが尽きたのだろう。
傷口から流れ出た血が痣のついた肌を汚し、白のワンピースを赤に染めていた。
身体を突き刺した冷たい氷は、さらに体温を奪おうと迫る。
凍てつく冷気を感じながら、ハイリアは霧の晴れてきた空に浮かぶ、漆黒の少年を見つめて涙した。
全部、彼に覆されてしまった。
望むことは叶わずに、すべて闇に消えて……。
── なんで、私は……こうなのだろう……?
なぜいつも、大切な人を助けられずに終わるのだろうか……。
悲しみと無力感に囚われる。
空から悠々と降り立ったジュダルは、動けない姿を見下ろして、満足そうに微笑んでいた。
「よぉ、やっと元に戻ったな。目ぇ覚めただろ? くだらねぇー力つけたって、おまえには何もできねーんだよ。けどまぁー、少しは面白かったぜ、ハイリア」
面白かったなんて、そんな簡単に言わないで欲しかった。
── ここまで必死にやってきたのに……。
溢れた涙が頬を伝って、こぼれ落ちていった。
「あらあら、可哀想に……。少しやり過ぎでないかしら? そんなに傷つけたら死んでしまうわよ、ジュダル」
ころころと女の笑う声がして目を向ければ、玉艶が覆面の従者に囲まれながらこちらに歩み寄ってきていた。
「こいつは、これくらいじゃ死なねーよ。やわじゃねーんだから」
ジュダルはそう言って、側にやってきた憎い女の方へと視線を送る。
「それもそうね。堕転も完全に果たさないまま、暗黒に身を染めて自在に動けた被験体なんて、この子くらいなものだもの。
まさかこんなに最後まで抵抗を示すとは、思いもしなかったけれど。さすがは稀なる存在といったところかしら……」
くすくすと玉艶が笑い、動けない傍らに座り込んだ。
涙を流すこちらを楽しげに覗き、血筋を指でぬぐい取ると、化粧でもさせるかのように目元へその赤を擦り付ける。