第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
突破口はいくつもない。
このまま何もしなければ、あの水溜まりの中に沈められる。
押し寄せる透明な水玉たちに溺れる感覚を思い出し、喉が詰まるような恐怖を感じた。
焦燥感にかられて剣を握る。
「燃やしつくせ! 蒼炎獣爪剣、アイニ・シャムシール! 」
絞り出したマゴイを青い炎に変えて大きく湧き立たせた。
円を描くように放った青白い炎の鉤爪が、前後から迫る水玉の群を狩ろうと爪をたてる。
無数にも思える透明な水玉に、次々と消えない青炎が絡みついて燃え上がった。
灼熱の炎が急激に水を蒸発させて、真っ白な蒸気に変えていく。
蒸気は霧を作り出して、辺りをかすんだ白に包みこんだ。
── どうにか、できたの……?
押し寄せていた気配が消え去っていくのを感じながら、ハイリアは強い疲労感に襲われて地面に座り込んだ。
身体が燃えるように熱い。
枯渇したマゴイを身体が求めているのがわかった。
白い霧が立てずにいるこの姿を隠してくれていることが、せめてもの救いだ。
銀の双剣に炎が灯っていない。
きっと魔装を保っていることが精一杯なのだろう。
残る攻撃の手は、この二対の剣だけ。
それもいずれ消えてしまう諸刃の剣だ。
マゴイが尽きて魔装が解けるまでの、時間稼ぎにしかならない。
── 黒ルフたちを、取り戻せたら……。
そしたらきっと、失われたマゴイも満ちるはずだ。
でも、その方法がわからない。
残るマゴイもないのにどうすれば……?
どうやってジュダルから、ルフを取り返したらいいのだろうか。
── こんなつもりじゃ……!
陥っている状況を信じたくなくて、否定ばかりが頭に積もる。
打開策を考えようとするのに、気持ちばかりが焦ってうまくいかない。
組織に挑む方法は、何度も考えたことなのに!
適正な武器も、魔法も、起こりうる状況も想定し、手順を繰り返し見直して……。
ジュダルが目覚めた場合のことも、当然考えていた。
でもまさか、こんな形で彼に力を剥ぎ取られるなんて思いもしていなかったんだ。
協力すると言ってくれた黒ルフたちが、あんな形で奪われるなんて。
それによって、自分のマゴイまでが急激に無くなることになるなんて。