第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「動いて! 」
声を張り上げてマゴイを送り、無理矢理、足を踏み入れた。
どうにか動き出した脚で空を駆け上がるが、スピードがのりきらない。
膨大なルフを操り従えるジュダルの姿に、一瞬でも怖気づいたから?
── それにしては、おかしい……、ぜんぜん力が入らない!
まとっていた黒ルフを引き剥がされただけなのに、まるで全ての力が抜けしまったかのようだ。
身体がひどくだるいし、息が上がる。
銀の双剣に灯る炎が、やけに小さいことに気づいてハッとした。
── もしかして、私……、マゴイが足りてないの……?
黒ルフたちをまとっている間は、ルフたちが魔法を起こす力をわずかに補ってくれていた。
気づかない内に、そのマゴイに乗じて自分のマゴイを使い過ぎていたのかもしれない。
── そんなにマゴイを使っている感覚はなかったのに……!
捕らえるように目の前に迫ってきた大きな水玉の一つを、青の炎で切り裂いた。
「解け」と命じたのに、二つに割れ裂けた水玉からルフに帰ったのはわずかで、残りは蒸気と細かな水滴に分かれただけだった。
明らかにルフの反応が鈍い。
攻撃の威力も落ちているし、剣先の炎はまた小さくなった。
── まずい、このままじゃアイムの魔装すら……!
飛び散った水滴の隙間を、急いでくぐり抜けた。
そこへ落ちてきた大きな水玉に、足が絡まりそうになってヒヤリとする。
後ろで一気に集結した大きな水玉たちを見ると、それらが弾けて新たな水球の群となって分散していた。
分散したそれが、再び追うようにこちらへ迫る。
舌打ちしながら水玉から距離を置こうと空を駆けた先に、杖を光らせるジュダルが立ちふさがった。
「どうした? おっせーぞ、おまえ。つまんねぇー動きしやがって、こっちもまだ余ってんぞ! 」
漆黒をまとうジュダルが振るった杖から、新たな水球が生み出される。
それがいくつもの水の弾丸となって前から撃ち寄せた。
後ろには、迫る水玉の群がある。
挟み撃ち状態に頭が混乱した。
残るマゴイは温存しなければいけない。
けれども、攻撃はすぐに迫る。
避けてもこれは追ってくるのだ。
ずっと逃げきるには、体力が足りない。
── 今できる最善の方法は……!
思いつくそれは最悪で、めまいさえ感じた。
── そんなことしたらマゴイが……、でも……!