第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
反発するような声が闇から聞こえて、ビキビキと腕の傷がひび割れて血が滴った。
「……っ!? 」
黒ルフが言うことを聞かない。
黒い炎を灯す双剣に宿るルフさえもが、攻撃の命令を無視して彼の杖に集う。
「どうした? 早く攻撃してこいよ、ハイリア」
くっくっとジュダルが面白そうに笑っていた。
「さぁーて、そろそろ、ふざけたその魔装をぜんぶ引き剥がしてやるぜ! 」
赤い杖を輝かせたジュダルに、黒ルフたちが一斉に向かい始める。
拒絶しようとしても、暗黒の闇はみるみる引き剥がされて、身体に巻きついた黒の螺旋が消え失せていく。
白虎のように変していた姿は、白獅子に戻り、剣に灯る黒炎は、青の炎へと色を戻す。
── 魔装が……!
壊れていく闇の魔装を保とうと、離れていく黒ルフたちに腕を伸ばしたが、指をすり抜けて飛んでいった。
ビィービィーと黒ルフの声が聞こえ、それがこちらの意を介さないものだとわかって絶望する。
彼らはもう、自分の存在を見てすらいない。
剥がされた黒のルフは、すべてジュダルの元へと集う。
黄金のきらめきをまとうマゴイが、漆黒に変じて輝いていた。
無数のルフを従え、自在に操るジュダルは、さながらルフたちの王のようで、漆黒の太陽のようにも見える。
強大すぎるそのマゴイの闇に、畏怖の感情さえ芽生えて彼を見据えていた。
足掻こうにも、どうすることもできずに、身にまとう最後の黒ルフが指先からこぼれ落ちて、ジュダルの赤い杖先に消えていった。
「やっと少しは元に戻ったな。残る魔装も引き剥がしてやるよ」
暗黒をまとうジュダルが、目を見開き固まるこちらを見下ろして、杖に闇の力を灯す。
集められた膨大なマゴイが黒く揺らめいて、巨大な透明の水玉が彼の頭上に作られた。
「おまえ、確か水が苦手だったよな? 」
意地の悪い笑みを浮かべて、ジュダルがいくつかに分散させた大きな水玉を放った。
放たれたその水玉たちが、空に浮かび立つハイリアに向かって素早く集結し始める。
水に沈めるつもりのようだ。
いくら剣に宿る毒の炎が何にでも火をつけるとはいえ、火の属性をもつアイムの魔装も水には弱い。
── 当たるわけには……!
急いで空を駆けようとするのに、足が鉛のように重かった。
迫る大きな水玉の群に焦りを感じても、なぜか足が動こうとしない。