第11章 暗闇の中で
隠し部屋から飛び出して、居間にたどりついても婆ちゃんの姿はどこにもなかった。
泣きわめきながら、外へ飛び出した瞬間、私は息を呑んだ。
村は燃えていた。
民家は激しい炎に包まれて、黒煙が上がり、赤く染まった家の前では、動かない村人達が変わり果てた姿で倒れていた。
暮らしていた家の屋根にも炎が燃え移る中、私は家の目の前で倒れていた婆ちゃんを見つけて、泣きながら駆け寄った。
『おばあちゃん! おばあちゃん! 』
私が何度、体を揺すっても婆ちゃんは起きなかった。
もう二度と起きないのだとわかって、泣き叫んだとき、あの人は燃えさかる炎の中から現れた。
妖艶な雰囲気をもつその女は、村を呑み込む激しい炎をものともせず、悲惨な村の光景を気にする様子もなかった。
『あら、まだこんなところに可愛い子がいたのね』
女は私を見つけるなり、やわらかな微笑を浮かべて歩み寄ってきた。
『真っ白でとても綺麗だわ』
泣きわめく私の白い髪に触れ、滑らすように頬に触れてきたその女は、とても美しい容姿をしているというのに、その身を囲むルフ達は闇のようだった。
女が纏う雅やかな着物が、赤く染まっているのを見つけて私が飛び退くと、女は綺麗な口元をつり上げて言った。
『綺麗な子。あなたは逃げなさい。そして、運命を恨み黒く染め上がればいいわ』
闇のようなその人が恐ろしくなり、私は走り出していた。
―― いやだ、いやだ……! だれか、たすけて!!
燃えさかる村から飛び出して、真っ暗な山中へと駆け込んだ。
暗闇が次々と襲いかかってくるようで、恐くて銀の腕輪を握りしめる。
『おばあちゃん! おばあちゃん! 』
助けてと叫ぶのに、誰の声もしない。
真っ暗な場所に、ただ一人残された。
呑み込まれてしまいそうな闇から抜け出すために、私はただ走り続けた。