第11章 暗闇の中で
暗い闇の中で、耳障りな音が響いていた。
外を駆け回るたくさんの足音と、悲鳴。物が割れ、壊れる音。
不穏な物音に、目を覚ました私は、村の異変に気づいて身を縮ませた。
『まあーた、盗賊が来たんじゃろうて……。大丈夫じゃあ、村の衆がちゃんと追い払ってくれるわい』
恐がる私を婆ちゃんは抱き上げて、いつもの地下の隠し部屋へと歩いた。
婆ちゃんは盗賊というけれど、知っていた。よく来るあの人達は、盗賊なんかじゃなくて、人さらいなんだって。
物珍しい私を狙っているのだと、子ども心に感じ取っていた。
地下には物置がある。使わなくなった家具や掃除用具が置かれた部屋の下には、隠し部屋があった。
空の水がめの下ある、小さな扉を開けると、婆ちゃんはその中に私を入れた。
『いいかい。すぐに戻るから、おまえはこの中でじっとしておるんじゃよ。大丈夫じゃあ、このお守りが、絶対におまえを守ってくれる』
婆ちゃんは腕にしていた二対の銀の腕輪を手渡して、にっこりと微笑んだ。
そして腕輪を握りしめた私をみて、ゆっくりと扉を閉めたのだった。
部屋は暗闇に覆われて、何も聞こえなくなった。
私は銀の腕輪を握りしめて、婆ちゃんが戻ってくるのをひたすら待った。
それなのに、いつもはすぐに戻ってくる婆ちゃんが、いつまでたっても帰ってこなかった。
水がめをずらす物音は、まだ響かない。
恐くなって目を閉じれば、新たな闇が目の前に広がって、身を縮ませた。
お守りを握りしめ、ひたすら婆ちゃんのことを思い浮かべていた。
やがて眠り込んでしまっていた私が目を覚ましても、そこに婆ちゃんの姿はなかった。
暗闇に一人閉じこめられている現状に、裏切られたような気持ちになって、隠し部屋の戸を叩きながら泣き叫んだ。
扉は重くて全く動かなかった。
何度か戸を激しく押し叩くうちに、ようやく水がめが割れる音が響き渡った。