第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「そうだな、もう終わりにしようぜ。目ぇ覚まさせてやるよ、ハイリア」
不敵な笑みを浮かべてジュダルが言う。
「ルフは味方になるだっけか? 俺とおまえじゃ、いったいどっちの味方につくんだろうな」
彼が空に杖を掲げたとたん、飛び交うルフがざわめいた。
一斉にジュダルの赤い杖先に向かって、黄金のマゴイのきらめきが引き寄せられていく。
「もっとマゴイをよこせよ、ルフども! おまえらは、俺のためにあるんだろ? 」
ジュダルが声を張り上げると、彼に集うルフの勢いが増した。
杖先にマゴイの塊が大きく形成されていく。
── このまま調子づかれると面倒だわ。
また魔法の攻防戦となったら、有利なのはジュダルの方だ。
── その前に、空から引きずり下ろして……!
ジュダルに向かって空へ駆け出した瞬間、ぞわりと血の気が引いていくような感覚がして戸惑った。
── え……、なに……?
身体の何かが揺すり動かされる。
胸の奥にある糸をたぐり寄せられるような。
足を掴まれて引きずられるような。
不穏なその感覚をたどった先に、ルフのざわめきが聞こえて困惑する。
身にまとう黒ルフたちが騒いでいた。
彼の元へ行きたいと叫ぶその声が増大していくのを感じて、慌ててハイリアは身体を押さえこんだ。
「待って……! あなたたちの主はそっちじゃない! 」
── ワタシに力を貸して!
マゴイに意志を宿して呼びかけた。
それでも外へ惹きつけられる感覚に、黒ルフたちがざわめき惑う。
肌に黒い螺旋を刻む縞模様が少しずつ剥がれ落ち、まとう闇から一羽、また一羽と黒ルフが漏れ出し始めた。
── そんな……!?
「俺は『マギ』だぜ? ルフが俺の言うことをきかねぇはずがねーだろ。マギでもねぇおまえが、ルフを束ねられるはずがねぇーんだ! 」
「そんなことない! 黒ルフたちは、ワタシを理解して力を貸してくれたんだ」
「そうかよ、でもそいつら俺の方に来たいみたいだぜ? 」
にやりと笑うジュダルに杖先を向けられた瞬間、まとう闇から削がれる黒ルフが急激に増え出した。
「やめ、なさい……! 」
苛立ちを覚えてジュダルへ向かう黒ルフの道筋に沿って黒炎を走らせた。
しかし、黒炎はすぐに小さくなって消えてしまう。