第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「アナタの負けよ。少しの間、眠らせてあげる! 」
にっこりと微笑んで、ハイリアは黒炎に命令を送った。
彼を眠らせる毒薬を作り出す調合を。
「ああ、そうかよ。でもよぉ、よそ見してるとおまえが吹っ飛ぶぜ? 」
ジュダルがにやりと笑い、何かが迫る気配を感じて振り返ったそこに、黄色い閃光があった。
── さっきかわした雷魔法!?
戻ってきた雷撃に剣先を向けようとした瞬間、その手首が掴まれる。
「させねーぞ。ちゃーんと受けてもらうぜ! 」
「ちょっ!? 離して! 」
押さえ込むように絡んだジュダルの手を振り払い、迫る稲妻に急いで黒炎を湧き立たせたが間に合わない。
混合した命令により乱雑な反応を起こした炎は、魔法に宿るルフたちを激しく揺さぶり乱す。
ぶつかり当たった雷と混じって炎が一気に膨張した。
熱の塊となったそれが弾けた瞬間、避ける間もなく爆発が生じ、赤い閃光が輝く。
とどろきと同時に爆風が巻き起こり、砂塵に撃たれながら身体が吹き飛んで、何度も背中が打ちつけられた。
そのまま地面を引きずられて、硬い床に転がり出される。
「うっ……」
ひどいめまいと耳鳴りに襲われながら身体を起こすと、辺りは一面、土煙だった。
近くにジュダルの姿がない。
視界が悪い中、見渡した空に漆黒の影を捉えて苛立った。
晴れてきたそこに、せっかく取り押さえたはずのジュダルが浮かんでいる。
「なぁーんだ、まだ動けるのかよ」
腹立たしいほどに余裕しゃくしゃくの態度だが、その姿は爆風で散った石にでも刻まれたのか傷だらけだった。
「巻き込まれるのわかって、攻撃してくるなんて……! 」
「あんなもん、痛くも痒くもねぇーよ。おまえ、俺を甘く見過ぎなんじゃねーの? 」
空から見下ろすジュダルが得意げに笑っていた。
「にしても邪魔だな、その魔装……。剣はぶっぱなすし、動きは素早しっこいし、魔法まで自由に使いやがる。
まともにおまえを相手にするのは、ほんと面倒くせぇよ……」
「だったら早く終わらせましょう? 空に逃げようと、ワタシには関係ないわ。もう一度、捕まえて今度こそアナタを眠らせてあげる」
剣の黒炎を再び燃え上がらせて、ハイリアは立ち上がった。