第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
剣に灯る黒い炎を消し去って、意志を宿したマゴイで銀の双剣を包みこむ。
湾曲した月のような形をしているそれを、力いっぱい空に投げつけた。
二つの銀刀は、円形の軌跡を描きながら空を飛行する。
くるくると刃を回転させて飛来するそれが、ジュダルへと勢いをつけて向かった。
「おいおい、やけでもおこしたのか? 」
滑空するように迫る剣を見上げて、ジュダルは呆れ顔だ。
「こんなもん、俺の魔法ですぐに……」
「よそ見してると怪我するわよ」
ジュダルのすぐ側につけていたハイリアが、低い位置から手刀を繰り出した。
マゴイを宿した猛虎のような爪を彼の腹部めがけて押し込めたとたん、ジュダルの防壁魔法が発動する。
「!? 」
目を見開いたジュダルのボルグが大きく歪みへこんだ。
思った通り、魔装したこの姿だと、素手でもマギの防壁に通用する程の攻撃ができるみたいだ。
「おまっ、いつの間に!? 」
「もう一度、眠ってもらうわよジュダル! 」
狙い通りに降り注いできた銀の双剣を空で受け取り、そのまま切り込んだ。
彼を包む歪んだ防壁に大きく亀裂が入る。
ビキビキと音を立てたボルグを見て、ジュダルが慌てて後退した。
「うおっと、危ねぇ! そーいや、おまえが武人だってことすっかり忘れてたぜ。妙な魔法ばっか使いやがるからよぉ」
「だったら味合わせてあげる。ワタシの剣術を! 」
逃げるジュダルを追って、双剣で乱雑に切りつける。
攻撃を避けるその足取りは甘い。
魔法は強力でも、ジュダルも他の魔導士と同じように、至近距離の攻撃は苦手なようだ。
手に取るように動きが予測でき、どうにか攻撃を防ごうとする壊れかけたボルグが、剣先が当たるたびにパキリと破片を落とした。
「くっそ、調子づきやがって! 」
苛立ったジュダルの杖から放たれた雷魔法を受けずにかわして、剣を振り上げる。
「なっ!? 」
「また魔法をルフにかえすと思った? そんな時間稼ぎに付き合ってる暇はないの」
炎を灯した双剣を押し込み、ボルグを切り裂いた。
バラバラと硬い破片が飛び散り、目を見開くジュダルを押し倒す。
馬乗りになって、その喉元に剣を突き立てた。