第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
── これで少しは……。
「それがおまえの防壁魔法ってか? 背中がガラ空きだぜ」
いつの間にか、後ろに浮かび立っていたジュダルが杖を向けていて、ハイリアは慌てて剣を振り下ろし風魔法を引き起こした。
すぐさま突風が彼に向かったが、それが白い光を宿した杖先に阻まれる。
そこから巻き起こった突風に目を見開く。
── 同じ風魔法!?
ぶつかり当たった二つの突風が乱れ、こちらの風がかき消されそうになったとたん、突風は途絶えずに渦巻く旋風が形成された。
それがジュダルの杖先に引き寄せられるように舞い戻る。
「なっ……!? 」
「おまえの魔法をもらったんだ。初心者のおまえにはできねーだろ? ほらよ、くれてやる! 」
赤い杖先が振り下ろされた瞬間、渦を巻く風が勢いよく迫り、目を見張った。
とっさに「解け」と命令を送った黒炎を奮い立たせたが反応が追いつかない。
ルフに戻しきれない旋風に扇がれて、地面に転がり落ちた。
「……っ! 」
落とされた地面からすぐに立ち上がろうとして、腕に鋭い痛みが走る。
ひび割れていた皮膚の亀裂が、指先にまで広がりをみせて血を滲ませていた。
本来、金属器にない魔法を起こすことへの負担がきているようだった。
「やっぱおまえが追いつけねーと、魔法をルフに戻すことはできねーみたいだな」
体勢を整えようとする中、ジュダルが悠々と地面に降り立った。
あれだけ魔法を乱射しながら、ジュダルからは一切の疲れが感じられない。
ルフの加護があるか、ないかでこうも違いが出るのだろうか。
これがマギと魔導士の差ということなのかもしれない。
魔法の攻撃の威力も、速さも格段に違う。
「どうした? 息切れてるぜ、おまえ。なんか無理してんじゃねーの? さっきから魔法使うたびに、手から血ぃ出てるみてーだし……」
「うるさいっ! ワタシの邪魔してこないでって、言ってるでしょ! 」
血が滲む指先で剣を握りしめて立ち上がる。
そうだ。マギであるジュダルに魔法で挑むこと自体が間違いだったんだ。
── ワタシの攻撃は、魔法だけじゃない!
余裕ぶっているジュダルに鋭い眼光を向けて駆け出した。