第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「あの部屋から出ていいなんて許可した覚えはねーぞ。そんなふざけた魔装なんかしやがって、おまえここに何しにきた? 」
「我らを殺して、あなたを助けたいらしいわよ」
くすくすと玉艶が笑う声がして、ハイリアは顔をしかめた。
「はぁ? おまえ、まだそんなこと言ってんのかよ……」
呆れた様子でぽりぽりと頭をかきながらジュダルが立ち上がる。
全てが終わるまで眠ったままでいれば良かったのに、厄介な人が起きてしまった。
彼が無力化する時間を選んだはずが、もう意味がなくなった。
普段でも暴れられたら手を焼くというのに、目覚めたばかりのジュダルはひどく機嫌が悪い。
とても大人しくしていてはくれなそうにない雰囲気だ。
空に立つこちらへ杖を向けたジュダルを見下ろしながら、ハイリアは大きなため息をついた。
「教えてやったはずだぜ、ハイリア。俺も組織の一員だって。おまえに刻んでやったその痣は、誰がつけたと思ってる? 」
「確かにこれは、アナタがつけた傷だわ……。でもこれは、あなたの意思じゃない。組織の意思だ。アナタのものなんかじゃない。
あなたはただ利用されただけ……。だから、アタシがあの女を殺シテこの組織を消し去るの」
「ったく、ずいぶん都合がいい思考回路になったもんだな。黒ルフどもに意識が呑まれちまってんのか?
堕転もしきってねーのに、そんなもん身にまとうからだ」
「意識……? ワタシは正常よ。黒ルフたちはワタシに力を貸してくれただけだもの。この組織に立ち向かう方法も、一緒に考えてくれたわ。
ルフは決して嘘をつかない。例えそれがどんなに濁り染まったものでも、ルフはアタシの味方になってくれる。
元々アナタには何もするつもりがないの。だから邪魔してこないで。
アタシが全て終わらせてあげる。あなたの闇の連鎖もアタシが断ち切って、ゼンブ無くしてアゲルカラ」
「そうかよ、何言ってもムダみてぇーだな……。おい、玉艶。このバカの相手は俺がしていいだろ? 」
「いいわよ。けれど、殺してはだめよ」
声が聞こえた壇上を見れば、持っていた長杖を覆面の従者に手渡しながら、玉艶がにんまりと笑みを浮かべて玉座に再び腰掛けていた。
「ああ、わかってるよ」
にやりとジュダルが笑い、赤い杖先にマゴイを集め始める。