第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
その色に染まるように、白獅子の獣毛に覆われている肌にも変化が生じ、とぐろを巻くような黒の螺旋が刻まれた。
白虎のような姿となって、暗黒の闇をまとう。
「なるほど、黒ルフを味方につけたのね。魔装でジンの魔法を自在に操り、ルフさえも従えるなんて、なんて歪な存在かしら。傲慢にも程があるわ。
けれど、なんだか重そうね。いくら闇に染まろうと、完全に堕転を果たしていないあなたが、それだけの黒ルフを従えて操るのは無理があるんじゃないかしら? 」
「無理かどうかは、その身で味わえばいいわ。氷竜の襲風、アルサルド・イアサール! 」
剣に灯る黒炎の中で青と白の光が入り混じり、力強く振り下ろした双剣から渦巻く風が巻き起こった。
氷が混じる嵐のような突風が、玉艶へ向かう。
「ルフの力で、ジン以外の魔法も使えるようになったということね、面白い子。
でも無駄よ。何度攻撃してこようと、あなたに私は倒せない。例え、黒ルフを味方につけようと! 」
覆面の従者から長杖を受け取った玉艶が、嬉々として笑みを浮かべていた。
闇を湧き上がらせて迫る氷の竜巻に、玉艶が杖を構えたその瞬間、突如として渦巻く風に巨大な閃光がぶつかり当たる。
── なに!?
轟音が響き、氷の竜巻がそれにかき消された。
冷気をまとう白い蒸気が拡散する。
縮まるように消えてしまった魔法に唖然としていると、背後から聞き慣れた声がした。
「……ったくよぉ、こいつに手ぇー出すなって言っただろ? 何勝手におっ始めてやがるんだよ」
機嫌の悪いその声をたどって振り返ると、横たわっていたはずのジュダルが杖先を向けて床に座り込んでいた。
眉間に深いシワを寄せ、くしゃくしゃと髪をかきむしっているジュダルの頬には、水が伝って流れたような痕がある。
── 水滴……。
先程、彼に向かって降り注いだ氷の刃を溶かした時に、落ちたのかもしれない。
「あら、起きたのね。もう少し寝ていてもよかったのに……」
残念そうに玉艶が言った。
「こんな状況で寝てられるかよ。目覚めわりぃーけど、起きてよかったぜ。なんかすげー面白そうなことやってんじゃん。なぁ、ハイリアよぉ! 」
ぎらりと苛立ったジュダルの鋭い眼差しが突き刺さる。