第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
破れた殻の奥にいる玉艶に黒の感情を煮立たせた。
── 殺シテヤル!
殺意をもって綺麗な衣装をまとった女の胸に刃を押し込めた瞬間、ぶつかり当たったそこを貫く感触がした。
確かな衝撃を腕に感じて、ほくそ笑む。
「アナタがイケナイノヨ。アナタがいつまでも、ジュダルを利用スルカラ……! 」
「そう……。それだけ、ジュダルに傷つけられながら、あなたはまだジュダルのことを信じているのね。愚かな子」
女の笑い声が、耳に響いて戸惑った。
剣が貫いたはずのその胸元を見て、目を見開く。
押し込めた刃の先端が、玉艶の胸に届いていない。
破れた防壁の先に、新たな黒壁があった。
銀刀がその窪みに突き刺さり、浅く埋まり込んだまま阻まれている。
── なっ!?
驚愕の表情を浮かべるハイリアに、玉艶が歪んだ笑みを浮かべてみせた。
「残念ね、壊れたのは表面だけだったわ」
くすりと嘲笑ったその女の足元で、剥がれ落ちた破片が青白い炎を小さくして燃えつきる。
「あなたの攻撃は、私には届かない。絶対にね」
声と共に急激に嫌な気配が迫った。
逃れようとしたその時には襲いかかっていた真っ黒な暗闇に、勢いよく身体が吹き飛ばされる。
「!? 」
叫ぶ間もなく身体が宙を舞い、闇に視界が奪われた。
もがき動いた先で黒が開け、目前に硬い床が迫る。
とっさに炎を放出させたが勢いは抑えきれない。
岩壁のようなそこに身体が打ち付けられて、衝撃が全身を包みこんだ。
「ぐっ……、っあが……! 」
息がつまるほどの痛みが走り、砕けた瓦礫に身体が埋まる。
骨が折れたかと思ったが、魔装のおかげか擦り傷くらいで大きな怪我はないようだった。
土埃が舞う中、立ち上がったそこに魔法が迫る気配を感じて空を見る。
迫るのはいくつもの青いルフの光。
目に捉えたそれは、天井から降り注ぐ氷刀の雨だった。
光の筋をたどった先に、杖を掲げる覆面の従者たちの姿を見つけて苛立ちが募る。
勢いよく双剣から青炎を高く湧き上がらせた。
「誰も邪魔してこないで! 青焔蛇煉獄、アイニ・マトハル! 」
炎を分散させて、空にいくつもの青い火玉を放つ。
それが炎の蛇頭と化して、迫る氷の刃を呑み込むように燃やし尽した。