第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「それにしても、面白いわ。魔導の力を持ちながら、捻じ曲げた使い方をしたせいで、あなたは魔法が上手く扱えないのね。
マゴイにその性質は残ったようだけれど……。やはり、あなたは我らと同じ場所から来たのかしら? 」
「何のこと? アナタ達と一緒になんてしないで! 」
「ふふふっ、あなたは何もわかっていないのね。
可哀想に……痛そうだわ。腕から血を流しているじゃない。いくら変異を遂げようと、身体の元は変わらないものね。
中途半端に魔導の力が覚醒したせいで、せっかく取り返した金属器とも相性が悪くなってしまっているのだわ。
あなたを王に選んだジンのマゴイが反発するせいで、その身が傷つくなんて……、ほんと、カワイソウ」
くすりと歪んだ笑みを玉艶が浮かべた。
その顏は、いつか見た燃え滅びた故郷に現れた闇の女とそっくりで、憎しみがこみ上げる。
「こんなの何ともないわ。アナタを消シ去レバ、全て終わるんだから! 」
腕に入った亀裂を伝う赤い血筋を振り払い、ハイリアは再び不気味な存在に向けて駆け出した。
強固といえど、あれはただの防壁魔法だ。
作りだって他のボルグと大差はないはず。
どんなに強力な魔法でも、すべては命令式から成りたち、ルフが生み出すマゴイから作られる。
破れないことはない。
── 直接切りつけて壊れないなら、この炎で溶かせばいい!
炎の調整は大きく左へ傾ける。
創造の毒を、破壊へ。
剣を持つ腕の筋が軋んで音を立てるほどのマゴイを宿し、青の炎を高く燃え上がらせた。
「滅せよ! 蒼炎獣爪剣、アイニ・シャムシール! 」
振り下ろした双剣から、奮い立つ青い炎の鉤爪が巻き起こる。
獲物を仕留めようと弧を描いたそれが、玉艶のボルグに爪を立てた。
ドロリと水のようにまとわりついた毒の熱が黒いボルグを覆いつくし、防壁を腐食させて濁らせていく。
毒が侵食するのは、防壁魔法を構成する元となる命令式だ。
魔法の構成にエラーが起これば、ルフとの連動は乱れる。
ルフとの繋がりが崩れた魔法はもろい。
それこそ簡単にひび割れるガラスのように。
くすんだ黒壁の表面にピシリッと大きな亀裂が入りこんだのが見えて、ハイリアは間髪をいれずにそこに飛び込んだ。
── やった!
剥がれるように崩落した黒の破片を捉えて剣を構える。