第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「あの子のルフの記憶でも見たのかしら? 勝手に人の記憶を覗くなんて困った子ね……。
それで……、私を打ち倒したとして、ジュダルをここから連れ出してどうするつもりなの? 二人で甘い恋人ごっこでもするつもりなのかしら? 」
くすくすとおかしそうに玉艶が笑う。
「黙レ!! 」
腹立たしいその姿に、双剣に炎を宿して飛びかかる。
すぐに玉艶を守るように、阻止せんと前から向かってきた三体の覆面の魔導士が、次々と魔法を繰り出した。
雷と、炎と、風。
同時に向かってきたそれを、「解け」と命じながら青い炎で振り払うと、ルフのきらめきが拡散した。
「おお、魔法がルフに……! 」
「やはり分身体が言っていたことは本当で……」
「ウルサイッ! 」
従者の口を塞ぐように、ハイリアは三体の闇のコアを素早く双剣で切りつけて破壊した。
青い炎が燃え上がり、三つの人形が転がり落ちる。
その奥に座る玉艶に向けて、勢いよく刃を振り下ろした瞬間、真っ黒な何かに阻まれて目を見開く。
漆黒のボルグだ。
異様なほどに堅い。
それが玉艶の周りを取り囲んでいた。
── この人も魔導士!?
金属器でも傷一つ入らない防壁に戸惑っていたその時、絡みつくような嫌な空気が迫るのを感じとって、ハイリアは慌てて後ろに飛びのいた。
距離を置いて地面に着地し、女を睨みつける。
攻撃をしてきたのかと思ったが、よく見れば、玉艶は腰掛けた玉座から
身じろぎさえしていなかった。
── 何なの、あのボルグは……。
並の魔導士の硬さじゃない。
── それにあの気配……。
不穏な空気を感じたとたん、警告するように心臓が高鳴った。
感じとった空気は、強者と出会った時のものとも似ているが、少し違う。
何か出会ってはいけないものと対面してしまったような、気味の悪い感覚だ。
ぞわりと背中を這われたような、不気味な感覚が取れずに肌に残って、言いようのない悪寒がする。
── この人……、ただ者じゃない!
注意をしろと全身の感覚器が騒いでいる。
「いい判断ね。さすがは我が国の武官……、といったところかしら? そんなに焦らなくても、あなたの相手はしてあげるわよ」
にっこりと玉艶が微笑んだ。