第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
中にあるものは傷つけず、ルフに宿された歪んだ命令式のみを破壊するよう指示した青い炎は、漆黒の殻に爪痕を残すように走りながら球体全域を包み込んだ。
殻に刻んだ傷痕から侵入を果たした青の炎が、連なる黒ルフたちをたどり、邪な命令式に火を灯して闇の連結を解いていく。
身体を侵していた毒が薬によって消し去られるように、反応はすぐさま拡散していった。
青白い光が闇の球体の中で揺れ動く。
闇の魔法が絶たれ、方向を見失った黒ルフたちの迷いざわめく声が次々と増大していった。
それが全域から響く声に変わったとたん、漆黒の球体がグニャリと乱れて崩壊する。
まるで水玉が弾けるように割れ裂けて、閉じ込められていた黒ルフたちが、一斉に勢いよく外へ飛び出した。
飛び交う黒が視界を埋め尽くす中で、支えを失い、今にも崩れ落ちそうな一つの影を見つけて、急いでそこへ飛び込んだ。
腕を伸ばして、しっかりとそれを抱き寄せる。
意識を失っているジュダルの身体は、魔装をしていても少し重かった。
それでも抱きかかえた彼の表情は穏やかで、気持ちがやわらいでいく感じがした。
「すぐに終わらせるからね」
眠る彼にそう言って、傷つけないようにゆっくりと地面に降り立つと、ハイリアは静かにジュダルを床に横たえた。
そして、広間の壇上からこちらを見下ろす女に剣の切っ先を向けて立ち上がる。
睨みつけた玉艶は、覆面の従者たちに囲まれながら、王が座るような椅子に我がもの顏で腰掛けていた。
「綺麗だわ。奮い立つ白い獅子のようでありながら、濃紺の厚い鱗をまとう竜騎士のようでもあって。それがあなたの魔装なのね。
また会えて嬉しいわ、ハイリアちゃん。そろそろ来る頃じゃないかと思っていたところだったのよ」
恐れる様子もなく、玉艶は優雅に微笑んだ。
「あなたはワタシが仕留める。ジュダルを解放してもらうわ」
「あの子を解放……? 何か勘違いしているのではないかしら。それではまるで、私がジュダルのことを束縛しているみたいだわ」
「しているではないか! 幼い頃から彼を縛りつけて……全部、オマエのせいじゃないか! 」