第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
たどり着いた大きな石造りの扉に向かって銀の双剣を振り下ろし、青い炎を巻き起こす。
白亜の閃光が輝いて、すぐに爆風がとどろいた。
土煙の奥に見えた影を捉えて空を駆けると、見知った円形の広間には巨大な漆黒の球体が浮かんでいた。
その下に集うのは、段上に列をなして囲み立つ幾人もの覆面の従者たち。
空中から見下ろすその姿は、床に掘り刻まれた八芒星の魔法陣を完成させるかのように円となっていて、組織の名を連想させるものだった。
作り上げられた漆黒の球体は、膨大な黒ルフの塊だ。
呼ばれていた声の元。
暗黒の黒点。
黒ルフの群生から成り立つその球体の中心部には、闇に埋れても不思議な輝きを放つものが一つだけある。
漆黒の太陽のように黒を輝かせる荘厳な光が。
── 待ってて、今たすけるから……。
目を惹きつけてやまない宝石のようなそれをすくい上げようと、ハイリアは双剣を振り上げた。
マゴイは細かく調整する。
恩恵と破壊を司るアイムの炎は、何にでも火をつけるが、その扱いは難しい。
右の剣に灯るのは、創造を促す毒が含まれた青の炎。
左の剣に灯るのは、破壊を促す毒が含まれた青の炎。
対極する二つの炎は、どちらかが多すぎても、少なすぎてもいけない、天秤のような炎だ。
大きく偏れば強まった一方の効果しか与えられず、釣り合いがとれてしまえば相殺されて何も起こらないこともある。
属性は火であり、毒。
毒というものは、なにも悪いものばかりではない。
量を間違えさえしなければ、それは毒でありながら薬となる。
不必要な歪みのみを燃やしつくす、清浄なる薬に。
イメージは、中にいるものを守るように。
それでいて、闇を取り払うように。
青い炎を宿す二対の銀刀に複雑な命令を送ったとたん、それに反発するように、腕の内でビキビキと筋がひび割れるような痛みが走った。
それを無視して炎を増大させ、呪文を叫ぶ。
「邪を解せよ。蒼炎獣爪剣、アイニ・シャムシール! 」
双剣を振り下ろした瞬間、膨れ上がった青白い炎が獅子の鉤爪となって、漆黒の球体に絡みついた。