第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
新たに現れた鋭い氷を避け、水晶壁のような柱の奥に隠れてしまった従者たちの姿を追うように、氷柱を選んで足場に変えた。
突き刺そうと迫る氷の刃は杖で砕き、冷たい柱の合間を跳び越える。
入り組んだ氷柱の奥に覆面の従者たちの姿が見えたとたん、巨大な炎の塊が目の前に勢いよく迫って、後退しながらそれを振り払った。
かき乱れた眩い光がきらめいて、わずかに熱を含んだ風が髪をなびかせた。
「魔法が効かないのか!? 」
覆面の従者たちが驚愕の表情を浮かべていた。
生まれた隙は見逃さない。
後方にあった氷柱の壁を足場にして蹴りこむと、ハイリアは身体をバネに弾丸のごとく飛び込んだ。
慌てた様子で硬い殻のような防壁魔法に身を包んだ従者たちに向かって、長杖を振り上げる。
薄い光の膜のようにも見える防壁に、「壊せ」と命じたマゴイを宿す杖を叩き入れると、割れ裂けた破片が飛散した。
ガラスのようにきらめく破片の奥に、敗北を悟った表情を浮かべた従者たちの姿が見えて、思わず笑みがこぼれる。
そのまま身体を捻らせて長杖を動かすと、杖が導かれるままに二体の魔道士の闇のコアを破壊した。
「くっ……、すでに我らでは、お止めできぬか……」
「皆に、知らせねば……」
ボロボロと崩れるように姿を消した覆面の従者たちがいた場所に、カラカラと二つの人形が転がった。
八芒星が砕けた楕円の不気味な顔に嫌気がさして、長杖で突き刺すようにその顔を潰し壊す。
「黙ってよ。あなた達の意見なんて聞いてないわ」
クスクスと笑って見える光をたどり、用事がある通路の奥の部屋へと歩み進んだ。
マゴイを宿した長杖で、厳重な扉をぶち壊して大穴を開ける。
入りこんだその中は、予想していた通り武器庫だった。
収められている剣や弓などの武具には目もくれず、ハイリアは壁際の机上に無造作に置かれていた、二対の銀の腕輪を掴み取った。
「起きなさいアイム。助けに来てやったわよ」
声をかけるなり腕輪の表面に現れた金色の瞳が、こちらを見て大きく目を見開いた。
『ああ、我が王よ、なんというお姿に……! あなた様、もうルフの色が……! 』
「そんなことは、どうでもいいの。果たしたいことがあるの。もちろん、手伝ってくれるわよね? 」
にっこりと微笑んでみせると、金色の瞳が複雑に揺らめいて黙り込んだ。