第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
魔法を生じさせているのはルフだ。
白も黒もそれは変わらない。
現象の源である彼らは、魔法の命令式を解いてしまえば、行きつく方向を見失って急速に元へ戻ろうとする。
だから、マゴイでその命令を上書きすればいい。
元の命令式をかき消してルフにかえせば、防御などしなくても魔法に対抗はできる。
魔法に宿るルフを扱う、この方法はわりと容易かった。
それがマゴイ操作を学んでいたおかげであるのか、はたまた魔導の力を元々持っていたらしい、この身体のためなのかはわからない。
けれど、そんなのはどうでもいいことだ。
黒ルフたちから学んだ知識と、自分のもつ知識を重ね合わせてみたら、出来てしまったのだから。
そよ風のように通り過ぎていった無害なルフたちを見送りながら、ハイリアは雷光が向かってきた前方へと目を向けた。
戸惑う覆面の男たちの姿を通路の先に見つけて眉を寄せる。
「増えてきたわね……、ほんと邪魔だわ」
現れたのは、二体の魔導士……、傀儡だ。
この先へ通す気はないらしく、こちらに杖先を向けている。
「今のはいったい!? 」
「わかりません。しかし、ここでハイリア殿をお止めしなければ……! これ以上、先に進ませては、我らでは手がつけられなくなります」
「ごちゃごちゃうるさい……。さっさと、そこを通してもらうわよ」
── あなた達が立つその奥の部屋に、欲しいものがあるのだから……。
二人の従者が立つ後方に見える厳重な扉に視線を送り、ハイリアは勢いよく駆け出した。
足元に向けて従者が放つ稲妻を、マゴイを宿した長杖で打ち消しながら、右へ左へと足取りを変え、距離を縮めていく。
脱兎のごとく飛び込んでいくその足取りを狂わすように、大きな氷の柱が床や天井、壁際からいくつも突き立ち現れた。
氷柱が道を塞いで視界を悪くする。
── 氷か……。
魔法で固体となったものをルフにかえすことは苦手だ。
雷などの空中を走るものや気体は、マゴイの反応が早くてやりやすいが、しっかりと地に生えて具現化されたものは、元に戻す過程も複雑でややこしい。
ルフに戻すまでの時間も、それなりにかかる。
液体ならまだやりやすいが、早さが求められる今、まともに相手にするほど馬鹿を見るだろう。