第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
狙うべき黒幕。煌帝国の皇后、「練 玉艶」。
例え身分が高かろうと、それが世話になった皇子たちの母親にあたる人物であろうと、手にかけると決めた人。
── わたさないわよ。あなたにワタシの『マギ』は……!
黒い炎が胸の奥から燃え上がるのを感じながら、今はまだ遠い大きな暗黒の黒点を睨み付けた。
「あーあ、でも、もう使えなくなっちゃったわ……。やっぱり武器は、もっとしっかりした物じゃないとダメね」
手に持つ、先が曲ってしまったフォークを見つめ、ハイリアは溜め息をついた。
マゴイで殻のようにコーティングしたところで、簡単に手に入れた脆く単純な武器は、すぐに壊れてしまう。
── 元々ただの食器だし……、仕方がないか……。
曲ったそれを放り投げ、床にある窪んだ不気味な人形を踏み壊す。
割れた欠片の側に転がっている長杖へと腕を伸ばし、拾い上げた。
「これなら少しは丈夫そう。長いわりには軽いし、使いやすそうだわ」
掴み取った黄金色の長杖は、身長を越すほどの高さがあった。
一度手にしたことがあるそれは、先端が丸みを帯びた卵のような突起となっていて、そこを支えるように長い柄が下へと伸びている。
本来は魔導士が使う杖だけれど、打撃や突きに使えなくもない。
杖術を使った戦いなんて、ほとんどやったことはないが基本は同じだ。
剣が長い棒状の武器に変わったと思えばいい。
握りしめた長杖を指に絡めてくるくると回し、感触を確かめていると、何かが急激にこちらに迫る気配がした。
前方やや右手。距離にして十数メートルといったところ。
目を向けると眩い光があった。
近づいてくるルフがまとうマゴイの色は黄色。
閃光に近いこれは……。
「Ⅳ型。雷魔法か……」
迫りくる激しい閃光に向けて、ハイリアは長杖を身構えた。
杖先に白いマゴイを宿し、「解け」と命令を送る。
稲光を起こす雷に身体が呑み込まれる前に、宿したそれで素早く光を切り裂くと、反応は杖先のマゴイが触れた場所から瞬時に起こった。
稲妻の形成はみるみる崩れ、鋭い閃光の勢いは、波紋が揺らめくように削がれていく。
柔らかな光へと変貌をとげた雷だったものは、すぐに拡散し、思い出したようにどこかへ飛び立って行った。
星屑のようにきらめき、羽ばたきながら。