第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
バッサリと覆面の男を縦に切り捨てる。
すると、固い床にカラカラと音をたてて、不気味な顔をした楕円の人形が転がり落ちた。
これで二体目。
落ちた人形に描かれている八芒星は、縦に窪みを作ってヒビ割れている。
その中核に宿るものを覗き見ようと、ハイリアは目を凝らした。
闇のコアは、もう見えない。
この人形も役目を終えたようだった。
やはり人形を動かしている闇のコアの正体は、人形に描かれている八芒星の魔法陣のようだ。
視覚として黒くよどんだ小さな球体として認知できるそれは、人に宿るルフを覗き見るようにすれば捉えることができる。
黒ルフが集まる小さなエネルギー体。
ヒトにはない、真っ黒な一つの目玉のようにも見えるそれが、人と傀儡との違い。
少しでも傷つけることができれば動力を失うようで、先程はそのコアに到達するように、深くフォークを突き刺すことで破壊した。
しかし、そこまでしなくても、コアに傷を刻むことは可能らしい。
見える黒点を狙ってしっかりと攻撃をすれば、先の短い武器による浅い裂け目であっても、傀儡のコアは傷つけられるようである。
元がただの動かない人形で、心臓部となっているのも、ただそこに描かれている魔法陣でしかないからだろうか。
今回は攻撃する武器にマゴイを宿していたため、そのことも少なからず関係しているのかもしれないが。
いずれにせよ、奴らの傀儡は闇のコアさえ壊れてしまえば機能を失い、仮初の姿も消える。
いったいどんな魔法で動いているか知らないが、こんな人形が当たり前のようにヒトとして動き、同じように生活しているのだから気持ちが悪い。
正体がはっきりとしない覆面の従者たちは、いったい組織にどれだけのヒトがいて、どれだけの傀儡がいるのだろう。
実は人形を動かす本体さえもなく、すべてが実体のない存在だとしたら……、身の毛もよだつ話だ。
不気味な八芒星が集う組織。
── アル・サーメンか……。
組織へ憎しみを向けていた黒ルフから名を聞いた。
といっても、その名が本当なのかもわからないらしいけれど。
それでも、名前はあった方がいい。
ぼやけてピントがずれていた敵の正体が鮮明になり、標的を定めやすくなる。
そして、そのアル・サーメンたる組織の中心にいる人物こそが、あの女だ。