第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「黒点? 」
「ルフの闇、暗黒の黒点……。あなたには見えていないの? 」
隣で首を傾げた女官を見つめ、ハイリアは微笑んだ。
手にもつフォークを向けて揺らしながら。
「ハイリア様……? 」
「じゃあ、これは? コアとなる中枢の闇……」
そう言って、ハイリアは側に立つ女官の胸元に、ブッスリとフォークを突き刺した。
中央に刺さったそこから亀裂が生じ、目を見開いた女官の顔に大きなヒビが入る。
「あなたたちの、心の臓……」
くすりと笑ったハイリアの目の前で、女官がひび割れながら膝をついた。
ボロボロと壊れていくその姿を、冷たく澄んだブドウ色の眼差しが見下ろしていた。
「な、なぜです……!? あ、なた様は、今、おち、からが……! 」
「さあ、どうしてでしょう? さよなら、お姉さん。朝食、美味しかったわ。お礼に一つあげるね」
ひび割れた女の額にデザートの苺を指で押し込むと、亀裂に沿ってその身体が弾けとんだ。
消えた女官がいた場所に残ったのは、八芒星が描かれた楕円形の人形が一つ。
その八芒星に突き刺さったフォークが一つ。
転がり落ちた、赤い苺が一つ。
「やっぱり、あなたも人形か……。面倒ね……、これからいくつ壊せばいいのかしら? 」
突き刺したフォークを抜いて、不気味な人形を踏み壊しながら、ハイリアは溜め息をついた。
大きな姿見の鏡まで歩き、首筋の銀のチョーカーに隙間を作ると、その金具にフォーク差し込んで、それを捻じる。
パキリと音を立てて、折れるように銀の装飾品が切れて床に落ちた。
「特になんともないわね……」
なんだか拍子抜けだった。
乱れたマゴイを抑えていると聞いたから、また皮膚に傷が走るくらいの覚悟はしていたのに。
「まあ、いいわ。何もないなら……」
ただ少し、リスクがあることを考えて行動した方がいいだろう。
封じられていたマゴイが解除されたとはいえ、感覚はまだ鈍いし、マゴイがいつ暴走するかもわからないのだから。