第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
代わり映えのしない部屋の中で、姿見の鏡の前に立っていた。
大きな鏡に映るのは、真っ白な可愛らしいワンピースを着ている、肌にいくつもの痣をつけた一人の少女の姿だ。
首筋にはまっている細みの銀のチョーカーに指を引っ掛けながら、ハイリアはその位置を確認していた。
「中央の赤い石の部分はムリ……。でも、サイドの細いところなら……あの方法で……」
ブツブツとつぶやいていた時、カタンと扉が開く音がした。
口を閉ざして指を解き、くるりと振り返ったそこに仮面のような顔をした女官の姿があった。
手には新しい水差しを持っている。
「あら、ハイリア様、起きられていましたのね。ちょうど、食事をお持ちしようかどうか迷っていたところでしたのよ。すぐにお持ちいたしますわ」
水差しを取り換え、いそいそと準備を始めた女官を目で追いながら、ハイリアは部屋にある唯一の椅子に向かい、静かに腰掛けた。
手前にあるのは、一人用の小さな机だ。
席につくなり、その上に並べられた食事は、いつもとあまり変わらなかった。
パンと、焼きベーコンと、オムレツと、サラダと、スープ。
デザートに苺のフルーツ。食後には紅茶。
朝食にありがちなメニュー。
スプーンとフォークを使って食べ進めていると、くすりと女が笑う声がした。
「それにしても、よかったですわ。『マギ』も安心なされていましたよ。ようやく、ハイリア様が食事を食べられるようになったと」
「ジュダルが……? 」
フォークに、サラダのミニトマトを刺して口に含む。
側に立つ女官を見ると、彼女は熱いお湯で茶器を蒸らし、お茶の準備をしながら微笑んでいた。
「はい。ハイリア様は知らないですものね。あなた様が怪我を負って寝ている間、『マギ』がどれだけこの部屋に顔を出されていたかも。ずっと心配なされていたんですよ」
「……そう。それで、ジュダルは今いないの? 今日は、まだ姿が見えないけれど……」
「ハイリア様が、珍しく寝坊なされていたからですよ。『マギ』は、朝のご公務中ですわ。もう少しでお戻りになられるはずです」
「……なんだ。じゃあ、さっき見えたあの黒点はやっぱり……」
卵を口に含んで顔をしかめた。