第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
黒の闇が迫るのを感じながら、ハイリアは笑みを浮かべて、その感覚の中に自らうもれた。
見えてきた暗闇に意識を研ぎ澄ませば、ビィービィーと鳴く黒ルフたちの声が聞こえてくる。
『早い帰りだな、限りなく黒き娘よ。「マギ」との戯れは楽しかったか? 』
闇にたたずむ黒い巨鳥が、くつくつと笑っていた。
── うるさい、黙って……。
『お主、まさか泣いているのか? もしや、あの「マギ」に……』
── なんでもないわ! 大丈夫よ、こんなもの、もうなくなるんだから……!
下を向いて顔を隠した。
辛くなんかない。
そうだ、辛くなんてない。
こんなもの全部壊してやる。
── もっとワタシに、教えなさい! おまえたちの記憶を!
声を張り上げて叫んだとたん、黒ルフの群生が大きくざわめいた。
闇が揺らめきうごめいて、ビィービィーと鳴き声が湧き上がる。
その闇の奥から、突如として飛び出してきた不自然な黒の一点が見えて目を移すと、それが急激にこちらへ近づいてきた。
不自然に見えたそれは、一羽の小さな黒ルフだった。
その黒ルフが、呼びかけるように鳴き声を上げて手の平にとまる。
── あなたは……?
不思議に思いながら額に寄せてまぶたを閉じた瞬間、ひび割れた黒い残像と共に、叫ぶような少年の声が胸に響いて目を見開いた。
── あなた、あの時の……!
止めるような声が聞こえて、ハイリアは胸に複雑な思いが起こるのを感じながら、うっすらと微笑んだ。
── ごめんね……。ワタシ、あなたとの約束は守れないかもしれない……。
ちょんと、その黒ルフを指先でつつくと、小さな黒い点が弾かれて、ビィーと鳴きながらルフの闇にうもれていった。
空を見上げれば、膨大な黒ルフたちがざわめいて、まだか、まだかと囁いている。
── さあ、次にワタシに知識をくれるのは、いったい誰なの……?
声をかけた瞬間、一斉に降り注いできた闇のような黒ルフたちを見据え、ハイリアはそこに向かって再び腕を伸ばした。