第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
「おまえ……、ほんとにハイリアだよな? 」
「どういうこと? 他の誰かに見えるの? 」
なんとなくイラっとして顔をしかめると、なぜかジュダルの表情がほころんだ。
「ははっ、やっぱなんでもねぇ。おまえは、ただのハイリアだ」
にっと笑われて、ハイリアは首を傾げた。
「よくわからない……」
「いいんだよ、おまえはそれで。もっと足掻け。無反応じゃつまんねーんだから」
そう言って、ふわりとジュダルに抱えられて寝台に降ろされる。
彼が何をしたいのかがわかって、ハイリアは表情を硬くしてジュダルの服を強く握りしめた。
「いやだ。もう痛いの、したくない……! 」
「そうかよ、じゃあ思いっきり痛くしてやる。無視できねーようにな」
見つめた先で、悪魔的な笑みを浮かべられて目を伏せた。
「……どうして、ジュダルは……」
「黙れよ」
すべてを言う前に唇を塞がれて、押し倒される。
慣れてきてしまった感覚に抵抗する気も失せてしまって、そのまま流れに身をまかせていると、舌を噛まれて鉄の味が広がった。
痛みで暴れ出した身体を押さえつけられて、溢れた涙が頬を伝う。
それを見て笑うジュダルの姿に胸が痛んだのは、きっと仕方がないことだ。
触れられる刺激に過敏に反応を示してしまう、別物のようなこの身体と同じで……。
── ねぇ、不届きな神官様……。
こんな風に痛みでしか関係を保てないなんて、傷を舐め合っているみたいだと思わない?
似ているのかもしれないね……、私たちは。
あの人たちに利用されて。
憎しみに囚われて。
暗がりへ落っこちて。
ひたすら傷つけ合って、破滅へ向かおうとするこの様も。
本当の想いを告げられないでいることでさえも、もしかしたら……。
だから、こんなの終わりにしよう?
ちゃんと見つけたから。
良い方法を。
温もりを重ねることで、偽りの安心感を覚える必要なんて、もうなくなるの。
もうすぐだから。
本当に、もうすぐだから……。
── 全部、ワタシガ取リ払ウカラ……。