第26章 緋色の夢 〔Ⅺ〕
── ジュダルには何もしないよ。そのために、黒ルフたちに方法を聞いているんだから……。
『そうか。しかし、いつまでもこちらにばかり、うつつを抜かしていては、あの「マギ」に気づかれるやもしれぬぞ。さっきから、名前を呼ばれておるのではないか? 』
くつくつと笑う巨大な黒鳥の声に混じって、ぼんやりと声がした。
── ほんとだ、ジュダルが呼んでる……。
聞こえた声をたどり、意識を研ぎ澄ますと、ジュダルが不可思議なものでも見るように、こちらを覗きこんでいた。
椅子に座る自分の視線を向かせるように、目の前で手の平を動かしている。
「ハイリア……? 」
彼に声をかけようとして、口の中に違和感があることに気づく。
口元に手で触れてみて、指に触れた棒状の物を掴んで取り出すと、それはスプーンだった。
鈍い光を放つ丸みのある銀色の背には、影を帯びた瞳をもつ、虚ろな顔がぼやけて映っている。
そういえば、食事をとっていたのだったと思い出して視線を下に向けると、机の上には空の器が並んでいた。
持っていた器の中身も、いつの間にか食べ終えてしまっている。
「あれ? なくなってる……」
「なくなってるじゃねーよ……。おまえ、ぼーっとしすぎだろ。どっか行っちまってんのか? 」
呆れた様子でジュダルがため息をつく。
「あのなぁ……、おまえがちゃんと食うようになったのはいいんだけどよぉ、やっぱりおまえ……、朝からなんか変だぜ? 」
「へん……? 」
「変だろ、声かけても時々反応しねーし、飯食いながらも上の空だ。いったいどこ見てんだよ、おまえは? 」
「どこも見てないよ。ご飯を黙って食べてただけで……」
味のないスプーンを空の器に置きながらそう言うと、こっちを向けとばかりに、ジュダルが顎先に手を添えて上を向かせてきた。
疑うような眼差しがこちらを見る。
「黙って飯食うやつが、食べ終わったことにすら気づかないのかよ? 」
「……それは、たまたま……」
意識を半分閉ざしていても、食事くらいは出来ることに気づいたから放って置いただけで……。
「少し、忘れてしまっただけ……」
「忘れた? 」
顔を近づけてきたジュダルが瞳を覗き込み、首を傾げた。