第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『我は、おまえに真実を見せているだけだ。なあ、月橘のような娘よ。お主の心を捻じ曲げた、恨みの元凶たる者は見つけたか……? 』
── 恨みの、元凶……?
呑み込まれそうな闇の中で、大きな黒鳥の声がした。
『ごらん、あれを……』
示された深い暗闇に、鮮やかな情景が映し出される。
目に入ってきたのは、壊されたいくつもの建物の瓦礫と、その周りに倒れこむ、おびただしい数の死体。
くすぶった煙があがるこの場所は、どこかの街なのだろうか。
破壊尽くされたその中に、小さなジュダルはたたずんでいた。
倒れるいくつもの骸をひどく冷めた視線で見つめながら。
『みんな、しんじゃった……』
ぽつりと呟いて、幼い彼が後ろを振り返る。
『ねぇ、これで、ほんとによかったの? 』
問いかけた小さな彼の後ろには、きらびやかな衣装を身にまとう綺麗な女性が、覆面の従者たちに囲まれながら立っていた。
漆黒のようなルフをまとい、笑みを浮かべるあの人は……。
── 皇后……?
着ている服こそ少し違うが、あれは皇后の玉艶だ。
その人が、悲惨な光景を前にしても、泣きも、笑いもしないジュダルに向かって、優しげに微笑んでいた。
『偉いわよ、ジュダル。よくできたわね』
そう言って、玉艶が小さな彼を抱き寄せて頭を撫でる。
『大丈夫よ。あなたは、すべて私の言う通りにしていれば、それでいいの』
ニタリと歪んだ笑みを浮かべた闇のようなその姿に、ハイリアは凍りついた。
── あの人……、あのヒトは……。
闇をまとうその姿が、燃え滅びた故郷で笑ったあの女と重なり合う。
壊された村の惨状と。
横たわる無数の死骸と。
楽しげに笑ったあの姿と。
渦巻くような漆黒と。
胸を締め付ける深い闇が、ぐちゃぐちゃに混じり合って……。
玉艶に褒められ、嬉しそうに微笑んだジュダルの瞳は、ひどく濁っている。
それと同じように黒く染まったルフたちが、幼い彼を包み込んでいた。
── あの人が、ジュダルを汚したの……?
湧き上がる熱を感じて、ハイリアは呟いた。
『さあ、どうであろう? 我は知らぬ。あのマギが、堕転を果たしたことだけは確かだが……』
闇の声がして、黒い熱が疼く。
それが絡みついて離れない。