第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『はい、「マギ」よ。あなた様は何も悪くないのです。全て、この者が悪かったのですから。あなた様が気に病むことなんて、一つもないのですよ』
にんまりと笑ったその者につられるように、ジュダルが口元をつり上げて笑っていた。
足元にある男の亡骸を、虚ろな目で見つめながら。
── やめて……。
見たくないジュダルの残忍な姿に、身体が震えて凍りつく。
それなのに、彼はとても寂しそうで……。
再び黒い輝きが起こり、黒の螺旋が揺らめきうごめいた。
新たに見え始めた場所は、どこかの高貴な部屋の一室だ。
そこで身なりの綺麗な女が、腕に傷付いた小さな子どもを抱えて、身体を震わせていた。
『この……、人、殺し……! 』
吠えるような声と共に、闇のようなルフが湧き上がる。
涙を流し、怨み睨む女の鋭い目先には、幼いジュダルと覆面の従者たちがいた。
『恨んでやる……、必ずおまえ達を、呪って……』
『うるさい……』
冷ややかな視線を向ける幼いジュダルの杖先が光り、また赤が飛散する。
『みんな、うるさい……』
動かなくなった亡骸に、ジュダルはつぶやいていた。
何かを諦めたような面持ちで。
── やめてよ……!
見たくないのに、黒の記憶は再び闇に映り出す。
独りぼっちで遊ぶ、幼いジュダルの姿が見えた。
人を堕転させて恨まれる、彼の姿が見えた。
身を赤く染めて殺めてしまう彼は、いつも側にいたはずの身内にさえも睨まれて……。
大切なものなのに、ジュダルが手を伸ばした全てが、いつしか壊れて消えていく。
立ち尽くす彼にも、陰で座りこむ彼にも、作り笑いを浮かべる彼にも、誰も手を伸ばしはしない。
叫びたいくせに言えなくなり、いつしかジュダルは何も言わずに黙っていた。
いつか連れて行ってくれた、闇夜に青く輝く綺麗な湖畔では、寂しそうにうつむいているくせに。
── もう、やめて! なんでこんな記憶ばっかり……!
知らない感情が頭に流れ込んできて、おかしくなりそうだ。
一人で、孤独で、寂しくて、助けて欲しいのに、誰も手を伸ばさない。
せっかく世界のために生まれたのに。
必要とされることは壊すことばかりで。
ああ、闇が宿る。この世界を恨まずにはいられなくて……。