第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『さあ、マギよ。この者に処罰を! 』
急かすような従者の声が響き、ジュダルの握る杖先がカタカタと震える男へとまっすぐに向かった。
『おねが……しま、……どうがっ! 私にはっ……! 』
すがり泣くその声が、眩い光と共に赤が飛散して消えてしまう。
厳かな衣装を真っ赤に染めた幼いジュダルが、崩れ落ちたその亡骸を、影を帯びた暗い眼差しで見つめていた。
感情を止めたような表情だ。
子どもらしくないその表情に、胸が締め付けられて疼き痛む。
── なんで……、こんなこと……!
『あの者たちに、「やらされていた」のでは? それは、お主も知っておろう? 』
黒い巨鳥の声が響き、信じがたいその記憶に戸惑っているうちに、辺りの情景が揺らめいた。
黒の螺旋に別の景色が映り出す。
見えてきたのは、真っ赤な空だった。
晴れ渡る空に輝く、赤い夕日。
どこか高い場所に一人で座り込み、幼いジュダルがそれを見つめていた。
夕日を眺める彼の表情は、その綺麗な景色とは対照的にひどく曇っている。
茜色に染まった小さな手を空にかざして握りしめ、またその手を開き、何度も、何度も、繰り返しその感触を確かめていた。
『きもちわるい……』
ぽつりと呟いて、ジュダルは膝を抱えて顔を伏せる。
『まだ、におい、きえない……』
小さく丸まって震えている背中に、手を伸ばそうとしたとたん、赤い幻影の中に彼の姿が消えてしまう。
『あのマギは哀れだな。望みなどしなかったのに……、何度も人を殺めさせられて……』
黒い巨鳥の声がした。
『ほら、また人を殺めておる』
黒い光が輝いて、揺らめく螺旋の闇に、また一つの幻影が映りこむ。
真っ白な石造りの床に横たわる真っ赤なものが見え始め、ハイリアは青ざめた。
流れ出た血潮の中に倒れているのは、武装したどこかの兵士のようだった。
その亡骸の側に立つ幼いジュダルは、着ている厳かな衣装を紅色に染めて、杖を握りしめていた。
『こいつが、いけないからやったんだ……、そうだよね? 』
幼い彼が振り返ったその場所に、長い杖をもつ官吏のような者が立っていた。
見慣れない服を着たその者は、会ったことなどないが、煌にいる「銀行屋」と同じ雰囲気をもっている。