第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
見えてきたのは、円形の広間の壇上に列を作る、幾人もの覆面の従者たちの姿だった。
これには、見覚えがある。
侵入を果たしたアジトでみた、『神事』の光景だ。
八芒星が床に描かれたその中央で、従者に押さえつけられてうずくまる、小さな子どもが泣いていた。
闇に響いていた声と、同じ声で。
厳かな着物を着た、黒い三つ編みが目立つ、あの子どもは……。
── ジュダル……?
『いやだっ! もう、こんなのやりたくない! 』
大きく声を張り上げた幼いジュダルの周りで、従者たちがざわめいていた。
『マギよ、我がままはなりません。「神事」は、あなた様のための大切な儀式なのです』
『やだっ! だって、くるしいんだ。くろいルフがきもちわるくて』
『じきに慣れますとも……』
『そうですとも、心配なされますな。何も怖いことなどないのですから』
『しかるべき事をされなければ、「マギ」としてのお役目も果たせませんぞ』
従者たちが杖に集め始めた黒ルフの姿を見て、幼いジュダルが逃げ出そうともがいていた。
抵抗も虚しく、小さな身体が従者たちに押さえつけつけられる。
天井から降り注いだ、黒い雨のような黒ルフの群れに、目に涙を溜めた彼が「いやだ」と叫んだとたん、ぶっつりと映像が途絶えてしまった。
視界は、黒く静寂な闇になる。
── これ……、ジュダルの記憶……?
『そう、黒きマギの記憶だ。迷うおまえが知るべき道筋……』
響いてきた黒鳥の声と共に、再び螺旋状に描き出された黒ルフの闇が揺らめいた。
その奥に何かが映し出される。
灰色の石壁と、鈍色の無機質な錠。
今度は薄暗い地下牢のようだった。
鎖に繋がれ、痣だらけとなりぐったりとしている男の側に、覆面の従者と小さなジュダルが立っている。
『マギよ、この者は我らの意に反した者。処罰しなければ、なりません』
その言葉を聞いて、幼いジュダルは確認するように、覆面の従者を見上げていた。
『じゃあ、このひとも、シケイなの……? 』
『そうですとも、マギよ』
『……そう』
従者の言葉を聞いて、ジュダルはつまらなそうに冷ややかな目で男を見つめた。
『そ、そんな!? マギよ、どうかお許しを……! 』
震え上がるその男が、泣きながらジュダルにしがみつこうとした瞬間、側に立つ従者がその男を長杖で殴りつけた。