第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
『可哀想に……、苦しいのであろう。白百合のようであったおまえは、もはや二日月のような輝きしか残っていない……』
黒い巨鳥が語りかけ、羽ばたいた大きな翼が近づいた。
柔らかな黒い羽根に、身体が包まれる。
『苦しむことはないのだ。我が助けてやろう。お主をその迷いから……』
ニタリと闇の巨鳥が笑った。
『見てみるが良い。おまえなら、この道筋をたどれるはずだ』
黒鳥がささやいたそこに、黒い螺旋が描き出されて現れる。
何かと思えば、黒ルフだ。
黒い鎖のように螺旋状に繋がった黒ルフたちが、階段となって闇の奥へと続いていた。
── この奥に、何かあるの……?
問いかけるハイリアの言葉に、黒い巨鳥は何も答えない。
ただ深い闇の奥を見つめていた。
真っ黒なルフたちが作り出す、闇の螺旋。
深淵へ落ちていくようなその渦の奥から、何かの声が聞こえる気がして、ハイリアは戸惑いながらも、ゆっくりと足を踏み入れた。
深い、深い、闇の先……。
ビィー、ビィーと鳴きわめく黒ルフたちの声に混じって、やはり微かに誰かの声がする。
一歩踏み出すたびに、声は少しずつ近くなり、はっきりと聞こえてきた。
これは泣き声だ。
くすん、くすん、とすすり泣く誰かの声。
歩むうちに、それが幼い子どものものだと気づく。
でも、その姿が見えない。
── 誰なの……?
声は確かに聞こえるのに、呼びかかけても返答はなかった。
ただ、すすり泣く声だけが聞こえる。
── どこにいるの?
聞こえる泣き声に再び問いかけても、返事はない。
── なんで、答えてくれないの?
悲しそうな泣き声に、胸が締め付けられて痛かった。
一人で泣いていたって、寂しいだけなのに。
── ねぇ、答えてよ。泣いてばかりじゃ、何もわからないよ!
いつまでたっても姿が見えない煩わしい声に向かって、ハイリアが声を張り上げたとたん、目の前の暗闇が大きくざわめき揺らめいた。
真っ黒な螺旋の闇がガラスのように割れ裂けて、何かの強い力に身体が引き込まれる。
── !?
吸い込まれたその暗闇の先に、ぼんやりと何かが浮かび上がる。
突如として現われた色鮮やかな情景に、ハイリアは目を見開いた。