第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
締め付ける圧迫感が息苦しさに変わった瞬間、熱くて黒い闇の炎が燃え上がり、怒りと憎しみが交差する激情が湧き上がる。
暗黒の闇に意識が奪われて、ハイリアはぎりぎりとジュダルの喉を締め上げた。
「アナタ、ガ……、イナケレバ……」
よどんだ闇を彷彿とさせながら、ハイリアはボロボロと涙をこぼしていた。
首を締めつけられているジュダルは、息苦しいのか喉元にかけた手を防ごうと指を絡めている。
それでも、なぜか挑発的な態度をやめない赤い瞳に激しい憤りを感じて、さらに力が入った。
闇はすべてを沈み込ませようと、黒の感情を捕えて離さない。
苦しくて、熱い鎖に絡めて、こちらを呑み込もうとする。
── 奪イタイノダロウ? コノ命ヲ……。
そうよ、この人さえ、いなくなれば……。
── ソウスレバ、オマエガ、満タサレルカラ……。
聞こえた闇の声に誘われるように、彼の首筋に向かって力を込めたとたん、こちらを見据えるジュダルの赤い眼差しが影を帯びていることに気づいてハッとした。
青ざめてジュダルの首筋から手を離す。
ケホケホとむせこむジュダルの姿に、身体が震え、涙が溢れ出た。
「……ちがうっ……! いやだ、イヤダ、いやダ!! こんなこと望んでないの! 」
拒絶したい黒い闇の渦に呑み込まれそうで、ハイリアは声を上げて泣き叫んだ。
反動で起こった激しい痛みに襲われて、胸を押さえこむ。
じわじわと迫る黒い熱が恐い。
息が詰まりそうになりながら、寝台に埋もれて喘いでいた。
「ははっ……、まだ堕ちねーなんてしぶといな、おまえは」
喉元を押さえるジュダルが、呆れた様子で笑っている。
「嫌い、嫌い……! ジュダルなんて大っ嫌い……! 」
「その大っ嫌いなやつに、おまえは遊ばれてんだ。いい顔してるぜ? もっと俺にみせてみろよ」
ぐいっと強引に引き寄せられて、泣き顔を覗き見たジュダルに、にんまりと笑われた。
いっそ枯れ果ててしまえばいいのに、涙ばかりが溢れ出る。
「憎いか? 俺が……」
試すような赤い眼差しが降り注いだ。
言わせようとするその瞳に反抗したいのに、言葉が出ない。
違うって言えない。言えなくて苦しい。
涙が溢れて、胸が痛んで……。