第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
── やめて……。
湧き上がってきた激しい怒りを伴う黒い感情で、胸が締め付けられて苦しい。
「なー、おまえはどう思う? 何がいけなかったと思う? 」
頭にジュダルの声が響いてくる。
感情を激しく揺さぶるその声から逃れたいのに、耳を塞ごうにも両手はいつの間にか、ジュダルに押さえられていた。
こちらを面白がるような赤い眼差しが降り注ぐ。
「俺はよぉ……、全部、違うんじゃねーかって思うんだ。誰が原因でもねぇ、ただどうしようもねー何かに流されてただけじゃねーかってな……」
── いやだ、やめて……。
闇が疼いて苦しい。腕を伸ばそうとそれが近づいて……。
「おまえも、本当はわかってんじゃねーのか? だってよぉ、おまえがこうなっちまうことは、ずっと前から……」
「ヤメロッ!! 」
口走ろうとしたジュダルを見たとたん、闇がハイリアを絡め取っていた。
湧き出す黒の感情にまかせて怒り叫んだハイリアが、ジュダルを睨みつける。
「へぇ~、いい顔つきになってきたじゃん。おまえのそういう目、嫌いじゃないぜ」
にやりとジュダルが笑っていた。
「ウルサイッ! ナンドモ、ナンドモ、ワタシヲ、傷ツケテ! アナタノセイデ、ワタシハ……! 」
漆黒のルフを湧き上がらせながら、闇の力に突き動かされたハイリアが、両手を押さえこむジュダルの手を強引に振りほどく。
自由を得たその手が向かう先は、彼の喉元だった。
白いその手がジュダルの首に指をかけた瞬間、なぜか締め付けようとした手の動きが止まってしまう。
両手を震わせるハイリアの虚ろな瞳が揺らいでいた。
「ソウヨ……、アナタノセイデ……、ワタシハ……」
滲んだその瞳から、涙が伝ってこぼれ落ちていた。
「どうした? やらねーのかよ」
彼の首に手をかけたまま、涙を流して固まってしまったハイリアを、ジュダルは静かに見据えていた。
「ヤメて……。こんナこと、シタくない……」
身体を震わせて、ハイリアが言う。
「そうかよ。でも、やらねーなら、おまえがやられるぜ? 」
ニッと笑ったジュダルの手がハイリアの喉元に伸び、ゆっくりと喉を締め付けた。