第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「おまえに死なれちゃ困るしな……」
その言葉に胸が疼き痛んで、枕を抱きしめた。
「もうほっといて……。食欲なんてないの……」
「嘘つけ、腹の虫鳴らしてたくせによぉ……」
「お腹痛いだけ……。誰かさんに、ひどいことされたから……」
「……ほんと口だけは達者だな」
呆れられているような声がして、枕に伏していた身体が引っ張られた。
見たくないから背を向けていたのに、仰向けにされて心が揺らぐ。
なんとも思っていないくせに、気にかけているようなジュダルの表情が見えてしまって胸が痛い……。
彼から目を逸らしたとたん、それが気に入らないのか目線が合うように頬を掴まれて直された。
「ちゃんと俺を見ろって言ったよな? おまえは全然、覚えねーのな」
ギシギシと寝台が揺れて、身体が押さえつけられる。
のしかかってくるジュダルの重みを感じて、失望感を覚えた。
結局、また彼に乱暴されるのだとわかって目を閉じたのに、なぜか嫌な感覚はいつまでも訪れない。
おそるおそる目を開いたそこに、静かにこちらを見下ろすジュダルがいてドキリとした。
苛立っている様でもない彼からは、何も読み取れない。
── なに……?
戸惑ううちに、近づいてきたジュダルに口づけを交わされた。
弄ぶようなキスをしてくるわけでもないそこに、滑らかな冷たいものが流れ込んでくる。
── 水!?
落ち込むように喉に押し寄せたその流れが苦しくて、顔を背けようとしたけれど動けない。
逃げ出そうともがいた舌先が動いた瞬間、喉が勝手にそれを受け入れた。
ゴクンと飲み込んだとたんに、苦しさは消える。
むせもせず、飲みこめてしまったことに呆然としながらジュダルを見つめると、口元についた水滴を彼は拭っていた。
「なぁーんだ。ちゃんと食えるじゃねーか、おまえ……」
にやりと笑い、ジュダルが側にある水差しに手を伸ばしていた。
「一人じゃ何も口にできねーってなら、俺が食わせてやるよ」
そう言って、水差しの瓶に入った水を口に含む。
「やだっ、いらな……っん……! 」
強引に口づけを交わされて必死にもがいたのに、ほんのりと冷たい水が口に入ると、望んでいないのに枯渇した喉がそれを受け入れた。
吐き出せなくて悔しくなる。