第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
柔らかな寝台にうずまって暗闇に意識を閉ざしていると、扉が開く音がした。
近づく足音が聞こえて目を開く。
再び現れた神官様は、さっき部屋に来た時ともあまり変わらない不機嫌な顔をしていた。
「おまえ、まだ食べてねぇのかよ……。いい加減、一口くらい食ったらどうだ? 」
機嫌の悪いジュダルが見つめる先……。
寝台の側にある水差しが置かれた小さな机の上には、冷めきった食事がある。
朝のだったか、昼のだったか、夜のだったかも、わからないもの。
一度、中身が変わったような、変わっていないような、見覚えのある色が並んでいる。
パンと、おかずと、サラダと、スープと、フルーツと……なんだっけ。
見えた色だけ数えてみて、ハイリアはそれから目を逸らした。
「何も食べたくない……」
枕に顔をうずめて、つぶやいた。
「水くらいは飲め」
「いらない……」
「……意地はりやがって、顔色最悪だぜ、おまえ」
「どうでもいい……、早く帰って……」
「帰れるかよ。あれから、何にも口にしてねーくせに……」
困り果てたような溜息が聞こえる。
心配なんかしてないくせに……。
「どうせまた乱暴しにきたんでしょう……? 楽しい? 無理矢理、身体を重ね合わせて……」
枕の隙間からジュダルの様子を伺うと、眉間にしわを寄せて、冷めた視線でこちらを見つめる彼の姿があった。
ずきんと痛む心より、やっぱりと思う気持ちの方が強かった。
ジュダルのことで傷つくのも疲れてしまって、感情が麻痺しているみたいだ。
無視をすれば余計に苛立って、望まないことをされるから話しているだけだもの。
「減らず口を言うだけの元気はあるみてーだな……。おまえがそんなにして欲しいって言うなら、今すぐ溺れさせてやろうか? 」
伸びてきた彼の手を感じて、ハイリアは身を固めた。
こわばる身体を慰めるように、頭を撫でられて動揺する。
優しいように思えるその温もりに騙されて、やわらいでしまう心が嫌だった。
「でもな、遊ぶもんが簡単に壊れちまったら、つまんねーんだよ。だから、おまえをこのままになんて、できねーんだ」
「私が被験体だから……? 」
わかっているのに聞いていた。
悲しくなるだけなのに。