第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「私、ずっと信じてたのに……。あなただけは、あの人達と違うって……」
胸に穴でも空いてしまったかのように空虚だ。
この国に来た時から、今まで知った彼の優しさも、笑顔も、嬉しかった思い出も……。
すべてが組織の計画による算段で、偽りだったのかと思うと悲しかった。
喪失感が渦巻いて、受け入れたくない心が胸を締め付けて苦しい。
奥の方からぞわりと黒の感情が溢れだす。
ずきん、ずきんと疼き痛む漆黒の闇に、意識が持っていかれそうになる。
黒に濁り染まったルフは、目覚めても何も変わっていない。
闇のようなその色に、夢じゃないのだと思い知らされる。
ルフに浮き出す黒い八芒星。
こんなの知らない。こんなものが、昔から刻まれていたなんて……。
覆面の男たちと、闇のような女の姿が脳裏に浮かんだ。
側に眠るジュダルを見つめていると、おかしな気持ちに突き動かされそうになる。
彼の首筋に手を掛けることを、連想してしまって怖い。
その首を締め上げて、息の根を止めるまでの過程が思い浮かんでしまい、頭から振り払う。
── やめて……! そんなこと、私は望んでないのに……。
湧き出す闇のような感情を抑えこもうと、ハイリアは自らの身体を抱きしめた。
胸元の服を強く握り締めて痛みを堪えるのに、それでも治まらない、どうしようもない苦しさが迫るのを感じて、頬を涙が伝った。
ルフの闇は消えてくれない。
怒りと孤独と絶望が渦巻いて、ずるりと呑まれそうだ。
── 堕ちたくない……。でも、このままじゃ……。
「どうすればいいの……? 」
ポタポタと涙がこぼれ落ちた。
いっそ、ジュダルを恨んでしまえれば楽なのだろうか。
けれど、そうしたくはなかった。
ひどい事をしたのは、他でもない彼なのに……。
── 恋慕した感情に、囚われてしまったから……?
だから、ジュダルを恨めないのだろうか。