第10章 食事会での迷い
「そうだ。俺達で捕まえるんだ。俺はとある事情で、金属器が今は一つもない。だから、君たちの力を貸してくれないだろうか? 」
シンはそう言って、ハイリアと、モルジアナのことも見つめた。
アラジンだけでなく、ここにいる三人の力を望んでいるようだった。
なんだか大きな展開になってきて、ハイリアは戸惑った。
『霧の団』はこの国の内紛の元凶だ。そんな大きな争いの中心となっている人達と戦うことは、正直避けたかった。
なんのために、今まで目立たないように行動してきたのか、わからなくなってしまう。
「ちょっと待ってください、シン! こんな年端のない子どもに、危険なことをさせるわけにはいきません! 」
シンの申し出に、臣下のジャーファルが、すごい剣幕でシンに詰め寄ったが、シンはその様子を見ても表情一つ変えなかった。
「年齢は関係ないだろう。必要なのは、盗賊に相対する力があるか、ないかだ。 アラジンはマギだ。彼にはその力が十分に備わっている。そして、俺が見たかぎり、彼女たちも力は十分にあるだろう」
シンの言葉に、ジャーファルは納得のいかないような表情を浮かべながらも、黙り込んでしまった。
恐らくこうなると、もう誰が何を言っても聞かないということなのだろう。
「盗賊退治だって……どうしよっか? モルさん、ハイリアさん」
アラジンがこちらを見つめてきたが、ハイリアはすぐに返答は出来なかった。
頭が衝撃続きで混乱している。いつの間にか、大きな流れの渦中に巻き込まれていて、どう対処していいのかわからなくなっていた。
国の内乱の鎮火になんて関わったら、嫌だと思っても戦いの中で広く名が知れ渡る。
そんなことしたら、「ここにいる」と、アイツに印を示すようなものだ。
この前の盗賊退治だって、まだ規模が小さいものだったから関わったにすぎない。
モルジアナが砦に向かっていなければ、絶対に自分から関ろうなんてしなかっただろう。
せっかく手の届くところまでやってきた、平穏な生活を壊してまで安易な行動に移れるほど、優しい心情は持ち合わせていないのだ。