第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「嘘なもんか。正直、金属器を手に入れた奴なら誰でもよかったんだ。王の器を堕転させることが、本来の目的だったからな。
おまえは流民だったし、捨てがきくから堕転させるにはちょうどいいって、親父どもは喜んでたぜ。
おまえは堕転するために、わざわざ俺の側に置かれたんだよ」
「堕転、するため……? 」
「運命を恨み、ルフが黒く染まることだ。わかってんだろ?
見てみろよ、おまえのルフ。すっげー黒く染まってる。おまえは、宮廷に来た時から親父どもの被験体なんだよ」
普段は覗き見ることなんてしない自らのルフへと視線を移したとたん、黒く濁り染まったルフが目に入り、ハイリアは目を疑いたくなった。
── なにこれ……、なんで私のルフ……、こんなに黒くなって……?
深い恨みの感情を灯す濁った黒だった。
牢獄で出会った褐色の少年とそっくりな。
『君も何かに囚われているんだろう? 』
悲しげで寂しそうだった少年の言葉を思い出す。
『君も僕と同じだ……』
── 同じ……?
『なあ、ハイリア……、約束して……くれないかい……? 君は、闇に堕ちないって……』
言われたその言葉が脳裏をよぎり、足元が崩れ落ちそうな感覚に襲われた。
「まー、おまえの場合、宮廷に来る前から親父どもの被験体ってことになるけどな。
おまえはよぉ、『十年計画』っていう親父どもがはじめた昔の実験の残りらしいぜ? ガキの頃に、燃え滅びた村で女に何かされただろ?
その時に、おまえのルフには八芒星の呪印が刻まれたんだ。ルフを黒く染める呪いの印がな」
戸惑うハイリアの胸の中枢を、ジュダルは指さした。
彼が指さすそこに、闇を宿す八芒星が見えて頭が混乱する。
── 呪印……?
「それは数日前から動き出してる。もうおまえのルフは、ほとんど黒だ。そんなに染まったのも、おまえが俺のルフに触れたからだぜ? 」
胸の奥でズキンズキンと疼き痛む、黒いわだかまりが強くなるのを感じて困惑した。
── 時々、胸を締め付けて疼き痛む、この冷たい感覚はまさか……!?