第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「ほら、弱えー。俺、そんなに力入れてねーんだぜ? おまえ、身体の元は魔導士だからな。マゴイがなきゃ、たいして力も入らねーんだよ。
こんなおまえにいったい何ができる? ここから逃げられんのか? 今すぐ俺を押しのけてみろよ。できねーだろ? 」
上から注ぐ赤い眼差しが笑っていた。
「おまえはバカじゃねーんだ。いい選択をしようぜ?
このまますべてを受け入れろ。そうすりゃ、今まで通りだ。何が変わるわけでもねー。おまえは俺の側近で、煌の武官だ。
紅炎たちも今まで通りに接してくれるさ。おまえはただ、黙って俺の手を取っていればいいんだよ。
大丈夫だ。大人しく過ごしてれば、あと三日もしないうちに、この部屋から出られるはずだ。ちゃんと遊びに来てやるし、退屈にもさせねーから」
そうすれば、誰も傷つかないとでもいうように、ジュダルが笑みを浮かべる。
惑わすようなその言葉は、悪魔がささやく甘い言葉のようにも思えて恐かった。
「やめてよ、ジュダル……。なんでそんな悪者みたいなこと言うの……? あの人達に、何か言われたんだよね……? だからこんなことするんだよね? あなたが本心でこんなことするはず……」
「はぁ? おまえ、何言ってるんだ? 俺も親父どもと同じ組織の一員だって、さっきから言ってんだろうが……。
それとも、おまえ、俺をいいやつだとでも思ってたのか? 何のために、俺の側に置かれていたのかも、知らねーくせに……」
呆れた様子でジュダルが言う。
「おまえはよぉ、親父どもに頼まれたから、この国に連れて来ただけなんだぜ? 」
「え……? 」
「迷宮を出現させ、攻略させて、金属器を手に入れた王の器を連れて来いってな。それがあの日、おまえと出会った時に、俺が親父どもから言われてたことだ。
はじめは用意されてた奴を、迷宮に押し込んで攻略させるつもりだったんだ。でも、アレはすぐ死んじまったし、おまえの方が見込みあったからな。
だから、死にかけてたおまえに手を貸して、拾ってやったんだ」
「うそよ……」
だって、あの時、確かにジュダルは助けてくれた。
大蛇にのみこまれそうになった寸前のところを。毒で死にかけていた自分を。