第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「もういい……、だったら勝手に出て行くわ。私、宮廷に帰ってやることがあるんだもの! 」
胸が締め付けられるような痛みを感じながら、ジュダルから手を放して、寝台を降りようとしたとたん、勢いよく身体が突き飛ばされて目を見張る。
真っ黒なルフを湧き上がらせるジュダルに、身体を押し倒されていた。
上から降り注ぐ赤い眼差しには、確かな怒りが宿っている。
「うるせぇーよ。黙って聞いてやっていれば、おまえは……。この部屋から出せだ? 宮廷に帰る? バカなこと言ってるんじゃねーよ。そんなもん、できるわけねーだろ!
おまえ、自分が何しでかしたかも、わかってねーのか? 」
鋭いジュダルの視線に、ハイリアは身を固めた。
「なぁ、ハイリア……。なんで親父どもを探ることなんてしやがった? 俺に黙ってこそこそ探りを入れ始めたのは、いつからだよ? 」
腕を掴むジュダルの手に力が入り、彼の爪先がぎりぎりと肌に食い込んで痛みが走る。
「答えろよ! なんで俺の黒ルフに触れやがった! 」
吐き出すように声を張り上げて言われた彼の言葉で、すべて知られたのだと悟った。
「ルフ見えてんだろ? 俺にずっと隠してたんだろ?
どうりで最近、変な夢ばっか見るわけだよな……。おまえが俺のルフに干渉したせいで、おまえの過去の記憶を見させられたんだよ。
おかげで、おまえがどんなやつかよくわかったけどな……」
怒りを宿した赤い眼差しが突き刺さり、ジュダルから湧き出す闇のような黒ルフが心をえぐっていった。
「俺を騙せて面白かったか? ここに入るのに使ったのも、俺のルフだろ? 忍び込んで秘密を探る感覚は楽しかったかよ?
こうなるのが嫌だったから、おまえを親父どもから離してやってたのに……。なんで、おまえはいつも……! 」
「……違う」
「あ? 」
「違うよ、ジュダル……! 勘違いしてる。私、面白がって、あなたを騙していたわけでも、この組織を探っていたわけでもない! 」
誤解があるとわかった瞬間、気づけばハイリアは声を張り上げていた。
苛立つジュダルの眉間に深いしわが寄る。
「ああ!? だったら、何のためにここに侵入しやがった! 」
「あなたを、助けたいと思ったからよ! 」
叫んだとたん、ジュダルの瞳が大きく見開かれた。
「俺を、助けたい……? 」