第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
「おいおい、ほんとにわかってねーのかよ……。あれだけ、部屋の中をめちゃくちゃに凍り付かせておいてよぉ……。おまえ、アレを治めるのに、俺に何させたと思う……? 」
じろりと苛立ち睨まれて、ドキリとした。
彼に何かさせたらしいが、全く覚えがない。
困って目を逸らすと、ジュダルに呆れた様子でため息をつかれてしまった。
「まぁいいけどな。おまえが起きたなら……。ほら、こっち見ろよ」
ぐいっとジュダルの方に引き寄せられて、かなり強引にキスされた。
不意打ちともとれるその行動に戸惑い、頬が熱く火照る。
逃げ出そうとしても、押さえつけてくる彼の舌づかいに溺れそうになり、ハイリアは慌ててジュダルの身体を突き放した。
「っん、やだ! なんで、いきなりこういうことするの!? 」
顔を真っ赤にして飛び起きたハイリアをみて、ジュダルは可笑しそうに笑っていた。
「おもしれーからな」
「面白いからって……! まさか……、寝ているうちに何かしてないでしょうね? 」
「さぁーな、いちいち覚えてねーし、どうだったっけなー? 」
にやりとジュダルに意味深な笑みを浮かべられて、ハイリアは頬を赤らめて固まった。
着替えさせられていた衣装を思い出して、身体を押さえこむ。
「え……、じゃあ……こ、この服も……? 」
「ばぁーか、それは女官たちが勝手にやったことだ。おまえの服、親父どもから盗んだ服が血まみれだったせいで、かなり汚れてたからな。
おまえさー、もう男装なんかやめちまえよ。その方が色っぽくていいじゃねーか」
「いやよ、こんなの落ちつかないもの。ねぇ、私の服、今どこに……? 」
「ああ? なんであんな服にこだわるんだよ」
不満そうにジュダルが顔をしかめていた。
「あの服は、私にとって大事な物なの。家族からもらった大切な服なんだから……」
手元にある最後のプレゼント。
あれを失くしてしまったら、ムトたちとの思い出は、本当に心の中だけにしかなくなってしまう。
「へぇ~、そう。でもさ……、捨てちまったらしいぜ? あの服」
「え? 」
「血に汚れて着れたもんじゃねーから、親父どもが捨てちまったってよ。もう燃えちまったんじゃねーか? 」
平然と言われたジュダルの言葉に凍り付く。
大切な思い出が引き裂かれて、バラバラに壊されたみたいだった。