第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
暗い水底に突き落とされたかのように、意志とは無関係に身体の力が抜けていった。
暗闇に視界が閉ざされる。
ぼんやりとした意識の中で、声が響いていた。
騒がしいような誰かの声と、ジュダルの声。
「申し訳ありませんでした、『マギ』よ。わたくしが目を離したばっかりに……! 」
「あー大丈夫。こいつは俺が、部屋に連れてくから」
── 部屋? どこに連れてく気なの……。
声が途絶え、ふわふわと揺れ動くような感覚が少しずつ消えていった。
ようやく開けた視界に、不機嫌そうな赤い眼差しが映りこむ。
その表情の奥に見えた天蓋で、先程いた部屋の大きな寝台に寝かされているのだとわかった。
「よぉ、気づいたかよ。ったく、もう少し大人しくしてろよな。おまえ、五日も寝込んでたんだぜ? 」
「五日……? 」
「そうだ、五日だ。五日間! おまえ、何しても起きねーから、このまま起きねーんじゃねーかって考えちまったじゃねーか! 」
すっげー待ちくたびれたんだからな、と寝台の側に座るジュダルが不満そうに言っていた。
── 五日って……、あれから五日もたっているってこと……?
そんなに時間がたったなんて思えないのに……。
「感謝しろよ。あのボロボロの状態から傷残さないように治してやるの、結構大変だったんだからな」
「あの傷……、ジュダルが治してくれたの……? 」
「あったりめぇーだろ! おまえの場合、俺が治した方が、傷が早く塞がるみてーだったし……。だいたい、親父どもだけになんて任せてられるかよ! 」
心外だとばかりに威張って言われたジュダルの言葉で、覆面の従者たちも関わったのだとわかり、なんだか複雑な気分になった。
彼がここにいる意味を考えて、目を伏せる。
「ぼーっとしやがって……。まだ寝たりねーのか? 」
「そういうわけじゃ……」
「まさかおまえ……、何も覚えてねーんじゃねーだろうなー? おまえ、マゴイが暴走しちまって大変だったんだぜ? 」
「マゴイが……? 」
意識とは無関係に溢れていた青白いマゴイの光をぼんやりと思い出した。
あれのせいで、あんな傷だらけになったのだろうか?
今まで体調を崩してマゴイが乱れた時だって、身体が切り裂けたことなんて一度もないのに……。
そういえば、あの身体に絡みついていた冷たい闇は、なんだったんだろう……?