第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
目が回るような気持ち悪いふらつきを感じながら、息が上がる重い身体を起こそうとしていると、ぱたぱたと走り込んでくる足音が聞こえてきた。
「大丈夫でございますか!? ですから、まだ走られてはいけないと! あれだけ血を失われましたのに……」
先程の女の声がして、顔も見えない歪んだ不気味な虚像に腕を掴まれた。
「いやだ、触らないで! 」
その手を振り払って、再び駆けだした。
ぐにゃぐにゃと揺れ動く、蛇行した通路をひたすら前へと突き進む。
── 早く、宮廷に……!
時々、霞みそうになる意識をどうにか持ちこたえさせて、無理矢理、身体を動かした。
息を切らして薄暗闇に浮かぶ、まっすぐなのか、曲がっているのかもわからない揺れる道を駆けていると、突然、脇から現れた黒い影にぶつかった。
身体が跳ね飛ばされて、よろめきながら腰をつく。
「何やってんだ、おまえは……? 」
聞き覚えのあるその声に、前を見れば黒い大きな像が揺れ動いていた。
それが呆れた顔をして立つ、ジュダルだと気づいて青ざめる。
「目覚めて早々に追いかけっこか? そんなふらふらの身体でよくやるぜ……」
怒っているようにも見える、赤い眼差しに見下ろされて固まった。
何も言えないまま座り込んでいると、しゃがみこんできた彼の手が目の前に迫り、恐くなって目を閉じた。
とたんに、身体がふわりと浮き上がって困惑する。
何かと思えば、ジュダルに抱きかかえられていた。
「ったく、手間かけさせやがって……。動けなくなるなら走り回るんじゃねーよ」
ぶつぶつと文句を言いながらジュダルが歩き出す。
向かうその先から駆けて来る覆面の女の姿が見えて、ハイリアは慌てて叫んだ。
「やだ、そっちは行きたくない! 」
「わかった、わかった。落ち着けって……」
なだめるように言うだけで、ジュダルは足を止めない。
「何言って……、落ち着いてなんか……! 早く逃げなきゃだめなの! 」
「おいっ、バカ! 暴れんな!? 」
パタパタと近づいてくる足音に焦り、押さえ込もうとしてくるジュダルの腕を振り払おうとした瞬間、赤い杖先が見えて眩しい光が降りかかった。
「いいから少し落ちつけ! 話はそのあとだ」
苛立ったジュダルの声が聞こえ、まぶたが重くなっていく。
「いやだ……、ジュダ、ル……」