第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
なんでこんな悲しいことが起こってしまったのだろうか。
どうしてあんな感情に囚われて、あの少年を手にかけてしまったのだろう。
苦しさと、悲しさに涙が溢れて胸が締め付けられる中、ハイリアはきらきらと集まり始めた光の粒を見た。
空気中にただよう、透明でつややかな氷の粒子。
突如として現れたそれは、身体からじんわりと溢れ出していた青白いマゴイによって作り出されていた。
── 青……?
見たことがないマゴイの色に疑問を感じたその瞬間、ハイリアの全身を息が詰まるような衝撃が突き抜けていた。
赤が飛散して、ワケがわからないまま倒れ込む。
気づいた時には、肌には切り裂かれたような傷跡が刻まれていて、そこから真っ赤な血が流れ出していた。
硬い床に広がる温かな血潮に埋もれた白い腕には、黒くうごめくものが絡みついている。
── なに、これ……?
冷たい感触がする闇だった。
蛇のようなそれが身体を締め付けてくる。
身体中が痛くて、冷たい。
とても苦しいのに、自分の意志とは無関係に溢れ出すマゴイが恐かった。
白に混じる青のマゴイが作り出す冷気が、体温をみるみる奪っていく。
── 私、死んじゃうの……?
絡みつく黒い闇は、嫌な記憶をよみがえらせて、不安を強くさせた。
── いやだよ……。私、まだ何もできていないもの……。
あらがうように、目に入った白くたたずむ小さなルフに腕を伸ばしていた。
指先にしか、その羽根が触れなくて悲しくなる。
頬を涙が伝うのを感じながら、霞んでいく視界に意識が呑まれていった。
── 助け、て……、だれか……。
凍えるような寒さで、もう何も見えないのに腕を伸ばす。
頭に浮かぶのは、ジュダルのことばかりで呆れてしまった。
組織に侵入した自分の姿を知られてしまったらと思うと恐いのに、結局、最後に頼ろうとしてしまうのは、彼なのだ。
── 今度は私が、ジュダルを助けたいと思ったのに……。
罰が当たったんだろうか。
自分勝手な思いで、彼にたくさん嘘をついてきたから……。
意識が落ち込んで、暗闇に沈んでいく。
冷たい、冷たい深淵へ。
闇に溺れそうで息苦しかった。