第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
闇に溶け込むように消えていく白い姿が、割れ裂けたガラスのように飛び散り、漆黒の視界に記憶の断片がきらきらと散らばった。
真っ白な闇が迫り、目の回るような光の渦に身体が呑み込まれる。
── くそっ、またかよ……!
落ちていく感覚から逃れようとジュダルが腕を伸ばしたとたん、真っ白な光に割れ裂けたあいつの記憶の断片が映りこんだ。
暗い森の山道に、泥に汚れた小さな身体が座り込んでいる。
すすり泣くハイリアの目に映ったのは、唸り声を上げる獣の群れだ。
青ざめたまま固まったらしいハイリアに、獣たちが一斉に襲いかかっていた。
泣き叫ぶハイリアに迫る鋭利な爪を切り落としたのは、双剣を握る男だった。
襲いかかる獣たちを次々に切り倒していったそいつは、震えるハイリアに駆け寄ると、小さな身体を抱きしめていた。
「無事でよかった」と言いながら。
ムトに抱き寄せられたとたん、わんわんと泣きはじめたハイリアの声が響き、その声がやけに胸を締め付けた。
わずらわしい痛みを伴うハイリアの声が遠ざかり、突風のような力に勢いよく吹き飛ばされる。
身体がどこかに落ち込んで、視界が突然、真っ暗になった。
気が付くとジュダルは、元いた漆黒の闇の中に倒れていた。
姿は黒ルフから、半透明の自分の身体へと戻っている。
── 戻って……、来たのか……?
ピィーピィーと騒がしく飛び交う、ルフの声を聞きながら身体を起こすと、隣には白く透けたハイリアが横たわっていた。
その身体に絡みついている黒い闇が見えて、ジュダルは目を見張った。
『助け、て……、だれか……』
苦しそうに胸を押さえて、ハイリアは涙を伝わせていた。
絡みつく蛇のような闇は、ハイリアの白い肌を引き裂き、赤い傷を刻んでいく。
── ハイリア……!?
とっさに腕を伸ばしたが、何かに縛られたかのように身体が動かなくなった。
遠くから誰かの声が響き、その声に意識が引きずられる。
何度も名前を読んでいるらしいその声に、ひどくイライラとした。
── 誰だ、この声は……!
激しく身体を揺り動かす、やかましい声は、いつまでも止まない。
「うるせぇーな……、何なんだよ……! 」
やけにべたべたと触ってくるその手を振り払いながら目を開けると、背の低い赤毛の皇子が笑っていた。