第25章 緋色の夢 〔Ⅹ〕
村を呑み込む炎に身を焼かれることもなく、姿を現した一人の女は、長い杖を握り持ち、衣類を赤に染めていた。
泣き叫ぶハイリアを見つけてニヤリと笑ったその女から、漆黒のルフが溢れ出す。
── あいつは……!?
『あら、まだこんなところに可愛い子がいたのね。他の子よりもずっとマゴイの量が多いわ。この辺りで見つけた掘り出し物の子どもって、もしかして、あなたのことかしら? 』
近づいてきた女の口元には、左下に目立つホクロがあった。
見覚えのあるその顔は、組織を束ねるあの女のものだ。
幼いハイリアに手を伸ばした玉艶が、白い髪とその頬に触れて微笑を浮かべた。
涙を流すハイリアの瞳が見開かれ、泣き声が止む。
『真っ白でとても綺麗だわ』
玉艶はにっこりと微笑むと、手にしている長杖に黒い闇の光を灯し、その杖先でハイリアの懐を軽く小突いた。
杖に宿されていた暗黒の闇が真っ白な身体に巻きつき、締め付ける。
闇の光が幼いハイリアの胸の中枢に集まり、溶け込むように黒い輝きを宿していったとたん、ハイリアが苦しそうに胸を押さえてうずくまった。
蛇のような闇が白ルフに絡みつき、ルフに八芒星の呪印を刻み込む。
『うぅ……、いたい……! あぁーっ!! 』
ハイリアが大きく泣き叫んだ瞬間、その身体から白の光が渦巻くように溢れ出した。
強い輝きを放つ真っ白な光が周囲のルフたちを寄せ集めて、激しい突風を巻き起こす。
『魔法!? あなた、魔導の素質が……! 』
黒い防壁で身を守る玉艶が、驚愕の表情でハイリアを見つめていた。
泣き叫ぶハイリアから溢れる光は治まらない。
透明にも近い白の輝きが周囲のルフたちをざわめかせながら、風の魔法を連動させていく。
空気を震わせる泣き声は燃え上がる炎を揺れ動かし、荒れ狂う風が唸るような音をたてていた。
辺りのすべてを破壊する勢いで吹き荒れる風が地面をえぐり、炎に包まれた民家をミシミシと軋ませて切り刻んでいく。
『すごいわ……、何なのかしら? 「マギ」でもないのに、こんなにルフを寄せ集めて……』